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Business & Economic Review 2005年09月号

【STUDIES】
モバイルペイメントの動向

2005年08月25日 調査部 金融ビジネス調査グループ 主任研究員 野村敦子


要約
  1. わが国の携帯電話加入者数は、2005年7月末現在8,854万、人口普及率は69%に達しており、市場の成長は鈍化している。そこで、携帯電話事業者や端末メーカー各社は、加入者の獲得や囲い込み、新たな収益源の確保などを目的として、モバイルペイメントサービスに取り組んでいる。モバイルペイメントとは、携帯電話などのモバイル端末を使って、製品やサービス購入に対する支払いを行うこと をいう。モバイルペイメントは利用場面によって、a.バーチャル決済(インターネット上での支払い)と、b.リアル決済(実際の店舗での支払い)に大別できる。当初は、モバイルインターネットを通じたバーチャル決済への取り組みが中心であったが、最近では、赤外線通信や非接触ICチップを使ったリアル決済に比重が移っている。携帯電話を使うメリットとしては、a.インターネットへの接続機能を有する、b.携帯電話にある液晶画面を利用して利用履歴などの様々なデータを表示することができる、c.通信機能を利用して、携帯電話の紛失時に決済機能を即座に停止させることができる、といった点があげられる。

  2. 海外の動向をみると、第三世代携帯電話の普及率が高い韓国や、世界最大の携帯電話メーカー・ノキアを擁するフィンランドなどで、モバイルペイメントの実用化に向けた取り組みが進んでいる。韓国では、携帯電話やインターネットなどのネットワークインフラが整備されていることに加え、クレジットカードやICカードの普及と利用が進んでおり、国民の多くがインターネットを通じた決済や金融取引を日常的に行っているなど、モバイルペイメントが受け入れられやすい環境にある。しかし、導入当初は、a.携帯電話事業者主導のため金融機関やクレジット会社の反発を招き、積極的に参加する会社が少なかったこと、b.携帯電話事業者間で方式に互換性がなかったこと、c.モバイルペイメント対応の端末が高額であったこと、d.携帯電話事業者がカード会社に通常よりも割高な加盟店手数料を要求したこと、などから普及が伸び悩んだ。こうした状況を打破したのが、ICチップを利用したモバイルバンキングサービスである。LGテレコムと国民銀行が開始した「Bank On」サービスは、操作が簡便であり、通信料金や端末価格が低く抑えられたことなどから、利用者を急速に増加させている。

  3. フィンランドでも携帯電話やインターネットの普及率が高く、インターネットバンキングやデビットカードなど電子決済サービスの利用が進んでいることを背景に、モバイルペイメントについても早くから実用化に向けた取り組みが行われてきた。しかしながら、当初期待されたほど普及していない。その理由として、a.モバイルペイメントサービスの内容が、ユーザーにとって付加価値のあるもので はなかったこと、b.モバイルペイメント利用時のデータ通信の技術としてWAPが用いられたが操作性やコストの面で問題があったこと、c.関連する事業者の連携が不十分であったこと、などがあげられる。

  4. わが国と海外の事例を踏まえ、今後モバイルペイメント市場が本格的に離陸するためのポイントを指摘すると、以下のとおりである。
    第1に、ユーザーに対するメリットの付与である。モバイルペイメントが時間やコストの削減など利便性の向上につながり、割引やポイントなど特典の提供があるなど、ユーザーにとって具体的なメリットがなければ利用は進まないであろう。
    第2に、利用者が携帯電話事業者や技術の違いを気にすることなく、一台の携帯電話端末をさまざまな場所で多様なサービスに利用できるように、標準化を推進する必要がある。
    第3に、ユーザーが安心して利用できるように、安全性を確保することも重要な課題である。
    第4に、モバイルペイメントの利用者(消費者、加盟店等)がモバイルペイメントを導入・利用する際のコストについても考慮する必要がある。

  5. これまでみてきたように、モバイルペイメントが普及する要因としては、a.対応携帯電話端末の普及、b.利用可能な範囲の拡大、c.携帯電話の特性と消費者のニーズに応じたサービスの提供、が重要と考えられる。わが国のモバイルペイメント市場を展望すると、携帯電話への非接触ICチップの標準装備などにより、利用者の量的な拡大は着実に進展するものと考えられる。今後は、鉄道などの限られた用途での利用にとどまらず、リアル店舗での電子マネーやクレジットカードの利用の促進、ネットワークとの連携による多彩なサービスの提供などにより、ユーザー一人当たりの利用頻度と利用金額をいかに高めていくかがビジネスの焦点となろう。ちなみに2008年度末には、対応端末の普及と利用可能な店舗網の拡大により、携帯電話を通じた電子マネーの利用総額は2.5兆円規模にまで成長するものと予想される。モバイルペイメント市場の成長は、モバイルコマース市場への波及効果が期待されるとともに、これにかかわる事業者に新たなビジネスチャンスをもたらすことにも繋がろう。その際には、企業間連携が重要な鍵を握ることになるとみられ、ネットワーク、端末、決済、金融、サービスなど、モバイルペイメントにかかわるさまざまな分野のプレーヤーによる提携が一段と加速すると考えられる。
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