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Business & Economic Review 2005年08月号

【PERSPECTIVES】
賃金構造の変化と物価体系への影響-賃金・物価の反転への可能性を探る

2005年07月25日 調査部 マクロ経済研究センター 主任研究員 山田久


要約
  1. 本稿では、デフレからの脱却がいつ実現し、その後の物価体系がどうなるかについて、賃金動向が物価に及ぼす影響に焦点をあてて展望する。

  2. ここにきてマクロ・ベースでみた賃金は持ち直しつつあるが、これは製造業部門によるもので、非製造業での下落基調からの脱却は依然不透明な状況にある。

  3. 近年の賃金構造の変化をみると、「柔軟性の向上」と「格差の拡大」が特徴として指摘できる。賃金の決め方が「年功・能力型」から「職務・業績型」に変わってきたことや、非正規雇用比率の上昇により、賃金調整のスピードが加速している。さらに、そうした最近の賃金構造・雇用構成の変化は賃金格差を拡大する方向に作用している。

  4. マクロ的にみた「賃金→物価」のルートは以下の二つである。

    a.需要拡大による需給逼迫を通じた経路…賃金・雇用の回復が緩やかにとどまるもとで、消費の拡大テンポも加速せず、この面からのインフレ圧力は限定的である。
    b.コスト増の価格転嫁を通じた経路…賃金が上昇傾向にある製造業では生産性向上がコスト転嫁圧力を吸収する。一方、賃金コスト上昇が価格転嫁されやすい非製造業では賃金抑制基調が持続する。

  5. マクロでは消費者物価の安定が続くものの、賃金格差の拡大に伴う所得の二極化は、物価体系に対しても二極化への圧力になる。高所得層は高級品・高付加価値商品を多く購入するようになり、低所得層ではコモディティー商品中心の消費行動が一段と強まる。

  6. 以上のような「価格二極化時代」のもとで、企業としては、インフレ時代の再来を見越して価格転嫁が容易になるとの期待を抱くべきではなく、商品・サービスごとに各々特性を踏まえたプライシング戦略を採用すべきである。

  7. 金融政策面へのインプリケーションとしては、2006年中には物価面からみれば量的緩和の解除を進めることのできる段階に入る可能性が示唆される。ただし、その際のインフレ圧力はさほど強くはなく、十分な準備のもとで解除を行うだけの余裕がある。

    また、賃金上昇・物価安定の両立を通じた経済の持続的成長を可能にするためには、非製造業分野における生産性上昇と雇用のミスマッチの解消が実態経済面での政策課題になる。
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