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Business & Economic Review 2006年06月号

【REPORT】
リボ・分割返済拡大の可能性が高まるクレジット・カード市場:アメリカの経験を踏まえて

2006年05月25日 調査部 金融ビジネス調査グループ 主任研究員 岩崎薫里


要約

  1. わが国では、クレジット・カードの利用代金の返済方法として一括返済が主流となっている。カード会社としては収益環境が厳しくなるなかで、リボルビング返済や分割返済を普及させ金利収入の拡充を図りたいものの、これまでのさまざまな取り組みにもかかわらず、一括返済への集中傾向に大きな変化がみられない。


  2. アメリカに目を転じると、クレジット・カード会員の半数近くがリボルビング返済を時々あるいは頻繁に利用している。しかも、低所得者のみならず高所得者の間でも利用割合が高く、リボルビング返済が身近な小口借り入れのツールとして広く浸透していることが確認される。


  3. アメリカでリボルビング返済が普及した背景としては、それが消費者のニーズに合致していたことに加えて、1970年代から90年代前半にかけての経済構造の変化がそうしたニーズを一層高めたことが指摘できる。具体的には、家計において所得の不安定化およびセイフティー・ネットの縮減が進むなか、所得平準化へのニーズが従来以上に高まる一方で、流動性の高い銀行預金の保有割合の低下に伴い、一時的な出費に対して機動的に対応できる金融商品の必要性が高まったことである。


  4. わが国でこれまで一括返済が主流であったのは、クレジット・カード市場で中心的な役割を果たしてきた銀行系カードにリボルビング返済や分割返済が長く認められてこなかったことと関係が深い。
    それに加えて、従来わが国では主に三つの点を背景に、リボルビング返済や分割返済に対するニーズが小さかった側面があることを否定できない。第1に、経済構造がアメリカよりも安定的で所得が急に落ち込むリスクが比較的小さい一方、金融資産は預金が中心なため急な資金ニーズにも対応できた。
    第2に、90年代半ば以降の長期にわたるデフレのもとで消費の先取り意欲が低迷するなど、経済環境が逆風下にあった。第3に、これまでクレジット・カードを利用できない場所が必需的支出を中心に存在したため、資金不足に陥った場合にカード・キャッシングや消費者金融会社の消費者ローンで現金を借り入れるほうが利便性が高かった。


  5. ところが、ここにきて上記の三つの要因に変調がみられる。第1の経済構造や金融資産構成に関しては、わが国でもアメリカ型に向かって進んでおり、長期的にはこの面からリボルビング返済や分割返済への潜在的ニーズが高まると見込まれる。より短期的なスパンで展望できるのが、2点めで挙げた経済環境が好転していること、および3点めで挙げた利用可能場所の制約が次第に緩和されつつあることである。すなわち、経済が正常化するなかで、「消費意欲の高まり」と「資金不足」の橋渡しとして、所得平準化の格好のツールであるクレジット・カードのリボルビング返済や分割返済が着目されるようになる可能性がある。利用可能な場所が広がりつつあることも、こうした返済方法を選択するのを後押しすると推測される。


  6. 日米の事情の違いを踏まえると、わが国でリボルビング返済や分割返済がアメリカほど広く普及する公算は小さい。しかしそれでもなお、上述の環境変化の追い風を活用してカード会社が使い勝手の一層の向上を図ることができれば、こうした返済方法の利用は従来よりも大幅に拡大する可能性がある。その一方で、クレジット・カードの利用可能場所が必需的支出にまで拡大するなかで、これまで比較的少なかった、生活費を補填するための利用が増えると予想され、カード会社にとってリスク管理が従来以上に重要となってこよう。
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