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Business & Economic Review 2005年05月号

【REPORT】
資源価格高騰のインパクト-“分散型ディスインフレ”局面をどうみるか

2005年04月25日 石川誠、山田久


要約
  1. ここ数年資源価格の上昇ペースが加速している。要因はさまざまあるが、なかでも中国をはじめとする新興国の高成長の影響が大きい。試算によると、中国が今後とも9%程度の高成長を続ける場合、2年後のわが国の資源輸入価格は、現行水準から5割高となる可能性がある。

  2. 資源価格の上昇を起点とする投入価格の上昇を、わが国企業がどの程度産出価格に転嫁しているかをみると、素材部門は投入コスト上昇分の約3分の2を川下段階へ転嫁している。一方、加工部門は、産出価格の下落が続き、コスト転嫁どころか、最終販売価格下落に伴う収益下押し影響を流通部門からいわば「逆転嫁」されている状況にある。

  3. このように、コスト転嫁状況に違いが存在する結果、現下のわが国物価体系は、産業別・企業別に投入・産出価格が大きくバラつく「分散型ディスインフレ」の状態にある。企業収益の状況も、全体としては過去最高益を達成しているものの、業界別・企業別にみれば「分散型ディスインフレ」下でのポジションにより、明暗が分かれている。

  4. 「分散型ディスインフレ」が生じる要因としては、a.事業集約化の進捗度の違い、b.国内消費市場における「デフレの罠」、の2点が挙げられる。すなわち、家計需要の低迷に伴う消費者物価の下落と新興国の高成長に伴う資源価格の高騰が併せて進むもとで、投入コスト増大の影響は基本的に製造業で吸収されている。そうしたなか、グローバル競争が激化していることに加え、事業再編などを通じた経営体質強化、価格支配力増強の余地が相対的に多く残る加工部門に、より重い負担がかかる状況となっている。

  5. 以上の認識のもと、中国が今後とも9%程度の高成長を持続するとした場合の、資源価格高騰、輸出増加を通じたわが国企業収益への影響を部門別に試算すると、a.資源価格高騰(21.1%)に伴う下押し影響は素材部門▲1.0兆円、加工部門▲1.9兆円、b.輸出増加(10.8%)による改善効果は素材部門+0.6兆円、加工部門+1.3兆円、非製造業+1.1兆円となる。a.、b.をネットでみれば、経済全体への影響はほぼゼロながら、製造業に限ると、素材部門▲0.4兆円、加工部門▲0.7兆円と、各々の経常利益を約5%下押す可能性がある。

  6. 一方、消費財の小売価格が2004年同様▲0.8%のペースで下落する場合、経済全体には価格効果だけで1.0兆円の収益圧迫要因になる。流通部門からの「逆転嫁」の現状を踏まえると、加工部門にはそのうち0.4兆円分の負担が課せられる。結局、資源価格の高騰、消費者物価の下落が今後も続けば、加工部門の経常利益は、両要因により▲1.1兆円(8%強)下押しされる可能性がある。

  7. 資源価格高騰のもとで、わが国企業が持続的な成長軌道に乗るためには、以下のような企業の取り組みを通じ、「分散型ディスインフレ」の構図を崩していく必要がある。
    a.経営資源の「選択と集中」を徹底し、グローバル市場での非価格競争力を高める。
    b.労働への成果配分の在り方を見直し、「収益拡大→雇用者所得増加→家計需要増加→消費者物価のプラス基調定着」の好循環が働く環境を整える。
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