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Business & Economic Review 2007年10月号

【STUDIES】
わが国における事業再生ビジネスの課題と展望

2007年09月25日 調査部 金融ビジネス調査グループ 主任研究員 野村敦子


要約

  1. 事業再生とは、内閣府の定義によれば「過剰債務に陥っている企業がコアとなる事業に関して十分な競争力がある場合、これを過剰債務の原因となっている不採算部門から切り離すことなどにより、競争力を回復すること」とされる。事業再生の手続は、倒産法制に則って処理を行う「法的整理」と、倒産法の申請をせずに処理を行う「私的整理」が2本柱となっている。わが国では社会的な風潮として、法的整理の申立はネガティブなイメージで捉えられがちであり、その後の事業活動に支障をきたすことも多い。そのため、事業再生に取り組むにあたって、まずは対外的な信用を維持でき、時間やコストの節約も可能な私的整理の可能性が検討される。そこで関係者の合意を得られない場合には、裁判所が介在する法的整理の手続が検討されることになる。

  2. 事業再生ビジネスは、上記の再生手続を踏むことになった窮境企業について、その事業の価値と再生の可能性を見極め、事業価値の最大化を図るために組織や財務、戦略の再構築を図るものである。

    その大まかな流れは、a.案件精査(デューディリジェンス)、b.再生計画の策定、c.ファイナンス実行、d.短期的な収益改善策(ワークアウト)、e.中長期的な成長戦略(ターンアラウンド)、f.再生計画の完了(エグジット)となっている。事業再生にあたっては、各フェーズで必要とされる資金の確保も重要な課題である。再生計画策定までの間の事業継続に必要な資金の支援を「DIPファイナンス」、再生計画の完了に必要な資金の支援を「エグジットファイナンス」と呼ぶ。

  3. わが国ではかつて、経営不振企業の再建にあたって、メインバンクが中心的な役割を果たしてきた。しかしながら、90年代半ば以降、金融危機が深刻化するなか、a.銀行のリスクテイク力の低下、b.メインバンクの機能の変化、c.企業経営や事業再生に対する考え方の変化、などを背景として、メインバンク主導の企業再建は機能しなくなった。そうした状況下、わが国の金融危機の局面において、不良債権処理と企業再生を一体的に行うための機関として、産業再生機構が設立された。産業再生機構は、わが国で未発達であった事業再生ビジネスの先導役として、a.債権者間の調整、b.メイン寄せの防止、c.事業再生モデルの提示などについて、一定の役割を果たしたと評価できる。産業再生機構の活動が呼び水となって、事業再生ファンドも多数組成されている。事業再生ファンドは、機構解散後の事業再生の担い手として、その活動が注目されている。

  4. わが国の倒産法制、とりわけ民事再生法はアメリカの再建型倒産手続である「チャプター11」を参考にしている。チャプター11は、当該企業の事業継続価値が清算価値を上回ると見込まれる場合、再生手続を行うことで利害関係者は回収額の最大化を図ることができるという視点に立ち、制度が構築されている。こうしたアメリカの事業再生手続は、わが国ばかりでなく、各国の倒産法制にも大きな影響を与えており、イギリスにおいても、事業再生を重視した倒産法制の改革が進められている。これらの国では、ターンアラウンド・マネージャーや倒産実務家(Insolvency Practitioner)など、資格を有する事業再生の専門家が多数活躍していることも特徴である。

  5. 今後、わが国においても平時における事業再生メカニズムを構築していくことが求められる。そのための課題として、実務面ではa.専門家の育成、b.リスクマネー供給主体の多様化、c.エグジット市場の整備、などが挙げられる。制度面では、a.私的整理と法的整理の連続性の確保、b.私的整理内で手続が完結するような仕組みづくり、c.法的整理についてさらに使い勝手をよくする工夫、などが求められよう。そうしたなか、2007年4月に認証ADR(Alternative Dispute Resolution:裁判外紛争解決手続)制度が導入され、私的整理から法的整理への移行を円滑につなぐためのスキームとしての活用が期待されている。

    金融機関にとっても、不良債権の発生を未然に予防し、経営不振企業を優良取引先に変貌させる可能性のある事業再生ビジネスに取り組む意義は大きいものと考えられる。したがって、早期に事業再生に着手可能とするためのワークアウト体制の整備に取り組むとともに、ファンドとの連携・協同作業を推進し、エグジット市場において仲介機能を発揮することが期待される。
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