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Business & Economic Review 2006年02月号

【REPORT】
アメリカで急拡大するスモール・ビジネス・クレジット・カード

2006年01月25日 調査部 金融ビジネス調査グループ 主任研究員 岩崎薫里


要約

  1. アメリカのクレジット・カード業界で現在、最も活況を呈している分野の一つが小規模企業や個人 事業主向けの法人カード、いわゆるスモール・ビジネス・クレジット・カードである。取扱額は過去4年間で2倍近くに膨らみ、2004年には1,400億ドルに達した。同カードは急な資金ニーズに対応する 柔軟性と利便性を備えていることから、銀行による一般融資を補完する商品として重要性が高まっている。

  2. 大企業や中堅企業が法人カードを専ら便利な決済手段として利用するのに対して、小規模企業や個 人事業主は決済手段としてのみならずキャッシュ・フローの改善および手軽な資金調達手段としても利用している。そもそもアメリカの小規模企業の経営者や個人事業主は、スモール・ビジネス・クレ ジット・カードが普及する以前から自分個人のクレジット・カードを事業に利用し、借り入れも行ってきた。これは、クレジット・カード利用の利便性によることもさることながら、業歴の浅い企業を 中心にその他の外部資金調達手段が限られていることに起因する。

  3. 近年、それまで個人向けカードを利用していた小規模企業や個人事業主がスモール・ビジネス・ク レジット・カードの利用に切り替えており、それが新規の利用増と相まって同カードの急拡大につながっている。個人向けカードからスモール・ビジネス・クレジット・カードへのシフトが生じている 要因としては、カード・イシュアーが同業務を強力に推進する一方で、それに小規模企業や個人事業主が応じたことが考えられる。

  4. まず、カード・イシュアーの事情についてみると、それまで注力してきた個人向けカード業務の収 益性が市場の成熟化などを背景に低下しつつあるなかで、新たな収益源としてスモール・ビジネス・クレジット・カード業務が着目されるようになった。同業務は従来、発行コストの高さがネックとな っていた。ところが、経営者個人のクレジット・ヒストリーに重点を置いたクレジット・スコアリング技術が開発されたことで、審査コストが大幅に低下した。さらに、クレジット・スコアリングを活 用して潜在顧客を割り出すことが可狽ノなった結果、ダイレクト・メールの大量発送を通じて全国規模での勧誘が効率的に行えるようになった。

  5. 一方、小規模企業らの事情についてみると、そうした企業は法人としての側面と個人としての側面 を同時に有する。従来スモール・ビジネス・クレジット・カードは、法人としてのニーズを満たすことに重点が置かれていた。ところが近年になって、併せて個人としてのニーズにも対応するように改 良されたことから、小規模企業の支持を得るようになった。ポイント・プログラムの導入がその典型的な例である。

  6. 銀行がイシュアーとなっているスモール・ビジネス・クレジット・カードでは、ここにきて同カー ドに対して新たに二つの付加的な役割を見出そうとしている。まず、銀行はスモール・ビジネス・クレジット・カードを、小規模企業向け融資を補完する商品と位置付け、他の融資商品との連携を図る 試みがなされている。さらに、同カードに対して法人および個人の両面で取引深耕のゲートウェイという役割を課す取り組みもみられる。同カードを入門商品として将来的には一般融資へ取引を拡大す る一方、同カード取引を契機に経営者個人との取引も取り込むことが意図されている。

  7. わが国でも最近になってアメリカのスモール・ビジネス・クレジット・カードに類似した金融商品 が登場している。こうした商品が本格展開されるようになれば、中小企業の資金調達の選択肢が拡大することになり、経済全体にも資すると判断される。わが国の金融機関がスモール・ビジネス・クレ ジット・カードの提供について検討するに当たり、アメリカから学ぶことのできる点としては、a.現金決済の部分をカード決済に切り替えることに主眼をおく、b.リスク管理を厳格に行うとともに、個 人信用情報の整備を進める、c.中小企業・個人事業主の特性およびニーズを十分理解したうえで商品設計を行う、d.銀行による本体発行の場合、同カードを他の金融商品と連携させる、あるいは取引深 耕のゲートウェイとして活用する、などであろう。
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