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Business & Economic Review 2006年01月号

【STUDIES】
中小企業金融におけるCLO活用の現状と課題

2005年12月25日 調査部 金融ビジネス調査グループ 主任研究員 野村敦子


要約

  1. 近年、中小企業育成および地域経済活性化の観点から、地方自治体がCLO融資に取り組むケースが 相次いで登場し、注目されるようになっている。CLO(Collateralized Loan Obligation:貸付債権担 保証券)とは、金融機関の保有する企業向け貸付債権を裏付け資産として発行される証券化商品をい う。わが国では、1990年代後半の金融危機を契機として、銀行が不良債権処理やBIS(国際決済銀行)自己資本比率規制への対応に迫られ、リスク資産圧縮策の一つとして貸付債権の流動化が行われるよ うになった。この時期には、リスク負担迫ヘが低下した銀行の中小企業に対する信用収縮が社会問題化することとなり、中小企業に安定した資金供給を行うことを目的として、地方自治体によるCLO融 資制度が創設された。現在では、中小企業育成策の一環として、地方自治体が積極的に取り組む事例が増えている。

  2. CLOの特徴は、企業が金融機関からの融資により資金調達する形態(間接金融)を取るものの、金 融機関はその貸付債権をSPC(特別目的会社)を通じて証券化し、市場で投資家向けに販売している点にある。すなわち、金融機関が最終的な資金提供者(投資家)と資金調達者(企業)および市場を つないでいることから、市場型間接金融と呼ばれている。

    CLOのメリットは、金融機関にとっては、貸付債権のオフバランス化、保有する信用リスクの市場 への移転、新たなフィービジネスの開拓といった点にある。企業にとっては、資金調達手法の多様化、資金調達コストの低減といったメリットのほか、直接金融への足がかりとしての役割も期待されてい る。投資家にとっては、多数の債権を集めることでリスクが分散されており、モニタリングコストが低い、格付け機関による評価がなされているなど、個別企業に対する投資よりも投資が行いやすいと いうメリットがある。

  3. CLOは、当初、主に金融機関のリスク資産の圧縮のためのツールとして用いられたものの、近年で は、自治体が中心となって、中小企業向け金融にCLOを活用する事例が増えている。その背景には、a.中小企業向けに安定的に資金調達可狽ネ手法の導入、b.成長力のある中小企業を直接金融へと結び つけるためのインフラ作り、c.こうした取り組みを通じた中小企業の育成および地域経済・産業の活性化、といった目的がある。東京都が「東京都債券市場国z」として、2000年3月に第一回CLOを実 施したのを皮切りに、大阪府・大阪市、千葉県・千葉市、福岡県、横浜市などが自治体CLOを実施している。また、複数の自治体が連携して広域CLOに取り組む事例や、中小企業金融公庫、商工中央金 庫などの公的金融機関が関与する事例も登場している。

  4. 海外では、わが国のように地方自治体が主導してCLOに取り組んでいる事例は見られないものの、 アメリカとドイツで公的機関が中小企業向け金融にCLOを活用している。

    アメリカでは、中小企業庁(SBA)が民間金融機関の中小企業向け貸付債権に対する信用保証業務 (SBA保証ローン)およびこのSBA保証ローンの保証部分の証券化を支援する「セカンダリー・マーケット・プログラム」を実施している。SBAの「セカンダリー・マーケット・プログラム」の特徴と しては、a.SBAの保証があり、投資家にとっては安定的で魅力的な投資案件であること、b.標準契約書の利用により、証券化にかかる事務手続きが円滑に行えること、c.Colson社に貸付債権に関する データ収集・管理等の業務を委託することにより、プログラムの効率的な運営が図られていること、などをあげることができる。現在、SBA保証付きローンの5割弱が証券化されている。

    ドイツでは、ドイツ復興金融公庫(KfW)が中小企業向け公的金融機関としての役割を果たしてい る。KfWは、2000年にPROMISEという名称のCLO制度を創設している。PROMISEは、ドイツの金融機関が保有する中小企業向け貸付債権の信用リスク部分を市場に移転させることにより、金融機関の 与信余力を生じさせ、中小企業に対する貸出に振り向けさせることを目的としたものである。同時に、KfWはCLO市場の整備にも取り組んでいる。

  5. 中小企業金融にCLOを活用する取り組みは国内外で行われているものの、一般的な手法となるまで には至っていない。それというのも、中小企業CLOの取り組みは緒についたばかりで、事例や経験が少なく、リスクも不透明だということがある。このため、中小企業や金融機関、投資家に広く受け入 れられるような土壌が整っておらず、政府系金融機関や自治体が信用補完等を行うなどにより、こうした仕組みを支えているのが現状である。

    現在のCLOの制度が抱える問題点としては、まず中小企業にとって、a.CLO組成にかかるコスト のため、金利が割高になる可柏ォがある、b.証券化を前提とするために、期限前完済等への対応ができない、c.参加条件が優良な企業に限られる、d.タイムラグが発生する、など、通常融資に比べ必ず しも優位な商品内容とはなっていない点が挙げられる。金融機関においても、a.経済情勢等の変化に伴い、CLOよりも中小企業向け融資を拡大する傾向にあること、b.新BIS規制の適用により、CLOが リスクアセットのオフバランス対策として有効な手法ではなくなること、など、CLOに積極的に取り組めるような環境となっていないことが指摘される。

  6. このように、CLOの利用拡大にあたって様々な障害があるものの、長期的な視点に立てば、CLO への取り組みは中小企業、地域金融機関双方にとって意義あるものと考えられる。

    中小企業にとっては、a.金融機関の事情に左右されない長期的・安定的な資金調達手法の確立、b. 自社の財務内容や信用リスクを客観的に把握する機会、c.自社の信用リスクに見合った金利等の貸出条件の設定による資金調達コストの低減、などにつながるものと考えられる。一方、地域金融機関に とっては、a.本来的な意味でのリスクコントロールの考え方を導入する契機、b.証券化手法のノウハウの取得による多彩な金融サービスメニューの提示、c.中小企業に関する情報生産機狽フ向上・リス ク管理体制の穀zにより、中小企業向け取引の収益性の向上、などに繋がるものと考えられる。

  7. 今後、中小企業金融の一手法としてCLOを着実に根付かせ、市場を育成していくためには、第1に、 公的機関と民間との間での役割分担を明確化していく必要があると考えられる。CLO市場の基盤作りにおいて公的金融機関の果たす役割は大きいものの、市場の更なる発展を展望するにあたって官主導 から民主導への道筋をつけることが重要である。現在のCLO案件のなかには、民間金融機関と競合するケースも多い。公的金融機関においては、資金ニーズがあるのに民間金融機関から通常融資を受け ることが困難な企業に対する支援、単独でCLO組成が困難な自治体や地域金融機関の支援、新しい金融技術に対応可狽ネ地域金融機関の育成などに重点を移していく必要があろう。

    第2に、民間金融機関、とりわけ地域金融機関における信用リスク管理・分析迫ヘを高めていく必 要がある。そのためには、a.データの収集範囲の拡大、b.中小企業の情報開示に関する意識の改革、c.XBRLなど効率的なデータ管理システムの導入などが必要と考えられる。また、現在政府において 検討されている電子債権市場が実現すれば、債権流動化が促進されることになり、CLOへの取り組みが一段と活発化することが卵zされる。

    CLO市場穀zまでには、今しばらく時間を要するものとみられるが、中小企業や金融機関、投資家 等にとって、資金調達手法やポートフォリオ・マネジメントの多様化、効率化をもたらすことにつながり、わが国の金融システムを間接金融中心から直接金融中心へ、「貯蓄から投資へ」の移行を牽引 することが期待される。
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