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Business & Economic Review 2007年06月号

【REPORT】
拡大する所得収支黒字と投資立国実現への課題

2007年05月25日 調査部 マクロ経済研究センター 主任研究員 小方尚子


要約

  1. わが国の経常収支の内訳をみると、2005年に所得収支黒字が貿易収支黒字を上回った。今後中期的にみても、新興国のキャッチアップ等を背景に、貿易収支黒字が縮小に向かう一方で、対外投資・貸付から得られる所得収支黒字は一定規模を維持し、その重要性が高まる見通しである。そこで、わが国の所得収支黒字およびその源泉となる対外資産の現状を、対外投資の先進国であるアメリカ、イギリスを中心に、海外諸国との比較から整理したうえで、所得収支黒字を経済成長に活かす「投資立国」実現に向けた課題を考察した。

  2. 足元の所得収支黒字の拡大は、「証券投資収益受取」の寄与が最も大きく、「直接投資収益受取」がこれに続いている。「投資収益支払」も、わが国景気の回復傾向が緩やかながら維持されるなかで、ここ3年連続で増加しているが、受取はこれを大きく上回って拡大している。投資収益の源泉となる対外資産残高の動きをみると、証券投資については過去10年間に着実に増加しているが、直接投資は伸び悩んでいる。

  3. 海外諸国との比較からみると、わが国の所得収支黒字は、金額的にはアメリカ、イギリスを含む諸外国を大きく上回っているものの、米英両国と比べて二つの面で「未成熟さ」がうかがわれる。

  4. 第1は、所得収支黒字を生み出すマネーの流れが「一方通行型」にとどまっている点である。日本では、「自国の貿易黒字→その結果蓄積された資産の対外運用→所得収支受取」という構図が基本である。一方、日本以外のG5諸国では、アメリカ、イギリスを典型として「世界からの投資資金の流入→米英企業・投資家のグローバルな投資→所得収支受取」という「ハブセンター型」に進化していることがうかがえる。

  5. 第2は、対外投資収益率の低さである。わが国の対外投資収益率は、ドイツとはほぼ同水準、フランスをやや上回っているものの、アメリカ、イギリスに比べると低い。これは、a.相対的に利益率の低い証券投資と外貨準備に対外資産の内容が偏っていること、b.直接投資の収益率が低いこと、が要因である。

  6. わが国で証券投資が多い要因として、バブル崩壊後、企業のリスク許容度・管理能力が低下し、対外投資においても収益性より安全性が優先されたことが挙げられる。90年代に、円高圧力を緩和するために繰り返された為替介入により、積み上がった外貨準備の割合が高いことも、収益率低下の一因である。外貨準備はその性格上、安定性が重視されるため、収益率が相対的に低い運用となっている。

  7. 直接投資の収益率の低さは、多くの日本企業の発想がなお「国内市場中心主義」から完全に脱却できていないことを示唆している。日本の対外直接投資は、製造業分野で国際競争力を持つ国内ビジネスモデルの移植が中心となっており、製造業の国際競争力の高さを海外進出で活かしている点では評価できる半面、海外のリソース、ビジネスモデルをダイナミックに取り込んだ対外投資が行われているとは必ずしもいえない。

  8. 以上のように、わが国の所得収支黒字は、金額的には増えたものの、投資資金・ビジネスモデルともに依然として「自前主義」の色彩が強く残っており、「対外投資の巧拙」の観点からは、課題が多いことがうかがえる。貿易面では、輸出と輸入がともに伸びる国際的な産業連関体制の構築が進んだが、今後は対外投資においても、海外のリソースをダイナミックに活用し、投資の収益率を向上させていくことが必要である。

  9. 近年、日本企業の財務体質が強化されていることから、企業のリスク許容度の回復が示唆される。

    企業には、こうした追い風を支えに、グローバルなスケールでリスクとリターンのバランスを追求し、対外投資の収益率を向上させていくことが求められる。収益性の高い投資やリスク管理の実績が積み重ねられていけば、ビジネスセンターとしての日本の魅力が見直され、海外からの資金流入が活発化することも展望できる。

  10. 政府としても、a.規制改革・市場化テストの活用をテコとしたイノベーティブな国内市場環境の創出、b.クロスボーダー活動に伴うリスクの低減につながるM&Aを含む国際的な経済・金融取引ルールの調和、など、「アジア・ゲートウェイ構想」の具体化を着実に進め、民間の取組みをサポートすることが求められている。
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