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Business & Economic Review 2007年05月号

【STUDIES】
中小企業金融の円滑化に向けた課題-新たな資金調達手法の登場とその定着に向けて

2007年04月25日 調査部 金融ビジネス調査グループ 主任研究員 野村敦子


要約

  1. わが国の中小企業においては、「情報の非対称性(情報の不完全性)」の問題が存在するため、円滑な資金調達が十分に行われていないという弊害が指摘されてきた。

    こうした状況下、近年、中小企業の資金調達環境の改善に向けた取り組みが進められている。一つには、リレーションシップバンキングの推進により中小企業金融における情報の非対称性の緩和を図ろうとする動きであり、もう一つは金融機関のリスクをコントロールする新たな資金調達手法の開発・導入である。具体的には、不動産以外の担保の活用や、証券化の手法を用いた市場型間接金融への取り組み、クレジットスコアリングモデルを用いた小口無担保ローンの導入などである。

  2. 海外の動向に目を転じてみると、アメリカでは、中小企業は多様な資金供給者から、多様な方法での資金調達が可能となっているほか、融資の実行から回収までを円滑に行うためのインフラが整備されている。

    フランスでは、民間金融機関の融資を促進させるための呼び水、あるいはリスク分散先として、公的金融機関に一定の役割が求められている。

    ドイツでは証券化市場が未発達であることから、公的金融機関(KfW)が証券化のスキームの標準化や信用補完等を行うことで、証券化市場を育成する役割を果たしている。

  3. わが国においても、新しい資金調達手法の利用拡大に向け、法制度の見直しや公的金融機関による信用補完制度の創設などの環境整備が進められているものの、新手法に対する中小企業のニーズはそれほど高くなく、金融機関の多くもコストの問題から取り組みに消極的である。

    こうした状況を改善するためには、実務面・制度面での障害を取り除き、中小企業や金融機関にとって使いやすい制度とすることが不可欠である。

  4. 同時に、金融機関においては、a.審査能力の強化、b.リスク管理体制の強化とその対応策としての新手法の導入、c.リレーションシップバンキングの質的な強化、d.ソリューション能力の強化、等への取り組みが求められる。また、中小企業においても、信頼性の高い財務諸表や経営に関する情報の作成・開示のための社内体制を整備するなど、金融機関との間の信頼関係の確立に努めることが不可欠である。

  5. わが国はこれまで、リスクマネーを供給する主体が銀行中心となっていたが、これからは企業の成長ステージや資金使途、業種などの特性に応じ、ノンバンクや事業会社なども含め多様な主体が多様な手法を活用してリスクの担い手となることが期待される。資金を直接供給するばかりでなく、保証等により信用補完を行う金融保証保険会社(モノライン保険会社)や、売掛債権を保証する取引信用保険、各種信用情報を収集・提供する事業者、担保の評価や処分を専門に行う事業者など、様々な業態が出現し、多数の企業の参入が促進されることが望ましい。
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