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JRIレビュー Vol.10, No.94

非伝統的手段としての金利政策の評価と課題-マイナス金利やイールド・カーブ・コントロールは広く活用可能な政策手段たり得るか

2021年10月20日 河村小百合


2008年のリーマン・ショック以降、足許のコロナ禍に至るまで、各国中央銀行は、量的緩和等の大規模な資産買い入れという手法のみならず、政策金利の側面でも非伝統的な手段を行使してきた。具体的には、①短期の政策金利をマイナスに設定する「マイナス金利政策」のほか、②イールド・カーブのより長い年限に政策金利を設定する「イールド・ターゲット政策」がある。後者には日本銀行の「イールド・カーブ・コントロール政策」も含まれる。

これらの非伝統的な金利政策は、約10年間にわたる各中央銀行による実践の経験の蓄積を経て、その評価が固まりつつある。本稿では非伝統的な金利政策を導入した中央銀行(スウェーデン・リクスバンクや欧州中央銀行)や導入を見送った中央銀行(米連邦準備制度)、さらには国際決済銀行や国際通貨基金といった国際機関がどのような評価を行っているのかをみることを通じて、日銀、ひいてはわが国が今後取り組むべき金融政策運営の方向性を検討する。

マイナス金利政策とは、世界的に低成長・低金利状態が長期化するなかで、中央銀行が従前は限界と認識されていたゼロ%を超えてマイナス圏内にまで金利を引き下げる余地を生み出したものである。主要中銀や国際金融界で固まりつつある評価を具体的にみると、各国の経済活動を刺激し、物価上昇率を押し上げるうえで一定の効果があったとされている。ただし、民間銀行の預金金利や貸出金利へのパス・スルー効果に実証分析上は疑問が残るなど、効果に関する評価は必ずしも一様ではない。

加えて、民間金融機関の経営、ひいては金融仲介機能の発揮へのマイナス影響や、預金の現金への大規模な代替を加速しかねない、金融の不均衡を加速させかねない、といった点での副作用もあり得るため、マイナス金利を深掘りする、ないしは長期化させるにも限度があると考えられている。

そうした点を映じ、コロナ禍においても、マイナス金利政策を新たに導入する中央銀行はなかった。マイナス金利政策は、今後、他中銀も含めて導入する可能性のある手段とは言えようが、ゼロ金利制約に直面した時に真っ先に採用されるような手段にはあたらないと認識されている。

イールド・ターゲット政策としては、オーストラリア準備銀行に導入例があるが、その政策意図や手法は日銀とは大きく異なる。日銀が実施しているイールド・カーブ・コントロール政策に関しては、コロナ禍においても、他中銀に追随する例はなく、本格的に導入が検討された形跡も見当たらない。逆に、コロナ禍での金融政策運営をいかに展開するかという検討を通じ、他の主要中銀からは日銀の非伝統的な金利政策に対して、厳しい目線が注がれている。

米連邦準備制度は日銀のイールド・カーブ・コントロール政策を「イールド・カーブの過度なフラット化を回避しつつ、金融緩和環境を継続することが目的の政策」とみなしている。マイナス金利政策に関しても、わが国のインフレ期待を好転させる効果はみられないことを実証分析によって指摘し、「日本のようにインフレ期待がすでに低くなってしまっている場合には、マイナス金利政策の有効性に注意する必要がある」との見解も明らかにしている。

現行のイールド・カーブ・コントロール政策を永続させることはできるはずもなく、いつかはこのコントロールを外さなければならない時期が必ず到来する。日銀としては、こうした見方や批判をしっかりと受け止め、中央銀行として本来取り組むべき、金融政策としての伝播経路や効果、副作用の分析をしっかりと行う必要がある。そのうえで、今後あるべき政策運営の軌道を、貸出促進付利制度の創設といった小手先の弥縫策ではなく、マイナス金利政策やイールド・カーブ・コントロール政策の段階的な解除も含めて、虚心坦懐に再検討していくことが求められる。わが国の財政事情は極めて厳しいが、財政再建や国債管理政策とも足並みを揃えて、金融政策運営の正常化を進めていくことが望まれる。
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