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ビューポイント No.2021-008

世界的な人口増加率と成長率の鈍化 ― わが国は、男女格差縮小等により出生率の底上げを ―

2021年09月30日 牧田健


2020 年はコロナ禍により世界的に出生数の減少がみられた。合計特殊出生率も2010 年代前半をピークに低下傾向を辿っており、こうした動きが続けば、中長期的に経済成長率にマイナスの影響が及ぶ可能性がある。出生率低下の基本的な背景には、所得水準の高まりがあり、短期的には景気の悪化も出生率低下に作用している。また、2015 年の欧州での難民危機とそれを契機とした欧米先進国での移民受け入れの減少も影響している可能性がある。

政策効果の限界も指摘できる。欧州各国は、さまざまな少子化対策を打ち出したが、出生率の上昇は一時的にとどまっている。出生率の押し上げ効果、持続期間は、国によって区々であるが、総じてみれば①家族関係社会支出対GDP比が大きい、②移民比率が高い 、③ジェンダーギャップ指数が高い(男女格差が小さい)、④比較的高い成長が続いている、国ほど効果が大きい。少子化対策として、公的支援強化のみならず、良好な経済環境、女性にのみ負荷がかからないような社会システム、移民をはじめ多様性を受け入れる文化が重要であることが示唆される。

国連によると、世界人口は、中位推計では2100 年まで増加し続けるが、低位推計では2054 年をピークに減少する見通しとなっている。中位推計は、出生率の見通しが楽観的なきらいがあり、世界の人口は中位推計対比早く減少に転じ、2050 年に人口増加を維持できる国・地域は、北米、豪州、北欧諸国、マレーシア、フィリピン、南アジア、アフリカ、中東くらいになる可能性がある。

人口増加率の鈍化は、中長期的に世界的な経済成長率の鈍化に直結する。とりわけ高所得国では、成長と人口の関係は大きく、今後インドなどの人口大国での成長ペース加速、資源輸出国での高成長が実現しない限り、世界経済の成長ペースも鈍化していく可能性が高い。

人口が減少している国の一人当たりGDP成長率をみると、人口増加率の鈍化に伴い成長率が鈍化し、その後輸出比率が高まるなかで、成長率も下げ止まり、持ち直している。今後人口減少国が増加していけば、成長のけん引役を輸出に依存する国も増えていく。一方で、アメリカをはじめ人口増加国も、今後人口増加率の鈍化に伴い内需の拡大余地が限られていくため、それらの国を輸出先としたい人口減少国では先行き輸出環境が厳しさを増していく。人口減少国においては、今後人口減少ペースを和らげ、内需の経済成長への寄与をできるだけ維持していくことがこれまで以上に重要になってくる。

欧州の事例を踏まえると、わが国の少子化対策が十分な効果を発揮できなかった背景には、①低成長持続、②欧州諸国対比でみていまだ不十分な家族関係社会支出、③限定的な移民受け入れ、④依然として低い女性の経済的・社会的立場、等が指摘できる。わが国政府は、良好なマクロ経済環境を整えると同時に、子育て支援をより拡充していく必要がある。また、企業も男女格差是正に向けた取り組みを強化しなければならない。一方、社会的な混乱を招く恐れがある移民については、どこまで受け入れるのか、国民のコンセンサスを探ったうえで、抑制的な運営を続けるのであれば、男女格差の縮小、家族関係社会支出の拡大により力を入れる必要がある。

わが国では、人口減少が避けられないなか、わが国経済がプラス成長を確保できるよう、一人当たりGDPの伸びをこれまで以上に高めていく必要がある。そのためには、海外の需要を積極的に取り込むことが不可欠ながら、これまでのところ、人件費をはじめとするコストの抑制に偏り、むしろ投資の停滞等により国際競争力の低下を招いてきたのが実態である。わが国の賃金はOECD加盟国の中でも低位にあり、もはやコスト面は輸出の大きな足枷にはなっていない。輸出の伸び悩みは、製品の競争力低下、国際的な展開力の不足に起因しており、今後は、賃金抑制ではなく、商品開発力やマーケティングの強化等により注力していく必要がある。生産性を高めるべくデジタル化の加速、積極的な研究開発投資等に注力していけば、一人当たりGDPは米欧並みの+1%台半ばの伸びは達成可能とみられる。

子育て支援拡充や男女格差縮小に加え、輸出競争力強化により獲得した成長の果実を家計に分配することで、人口減少をできるだけ抑制し、中長期的に内需の底堅さを確保していくことが求められる。


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