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ビューポイント No.2021-006

テレワークを活かす人材戦略・時間管理の変革ー「ウイズコロナ・フェーズⅡ」で求められる働き方改革

2021年09月08日 山田久


パンデミックが長期化するなか、アフター・コロナに向けて経済社会がコロナ禍以前から様々に変わることは間違いなく、「働き方」にもすでに大きな変化がもたらされている。そうしたなか特に注目すべきはテレワーク(在宅勤務)の導入が進んだことである。それは、長引くウイズコロナのもとで経済活動を円滑に進めるために不可欠の手段であることに加え、世界の主要国に先駆けて人口減少が進むわが国で、老若男女を問わずできるだけ多くの国民がその能力をフルに活かして働ける環境づくりが、喫緊の課題になっているためでもある。

各種調査によれば、一部企業では在宅勤務を基本にする抜本的な勤務体系の変革が行われていることが窺われる。その一方、さしあたり緊急避難的にテレワークを導入したものの、その後元の勤務体系に戻ったケースもかなりの程度存在する。この背景には、テレワークは生産性に対してマイナスに作用するケースが少なくないという事情があり、その程度は海外に比べても強い傾向がある。そこには、わが国固有の仕事の進め方が影響しており、テレワークで効率を上げるには、個々の労働者に仕事の手順や裁量が任される状況が必要で、さらにそれを遂行するのに十分なスキルや知識が求められる。欧米に比べ、わが国ではそうした裁量性の高いプロフェッショナルな働き方が十分できていないことが、テレワーク普及の障害になっている。

もっとも、専門職を増やせば問題が解決するというような単純な話ではなく、日本人の時間の使い方や生活習慣に根差す問題も看過できない。日本人は、「仕事」や「家族ケア」といった、生活上不可欠で受動的な活動に費やす時間が長く、「学び」や「社会活動」といった、より選択的で主体的な活動に費やす時間が少ない。この結果、「限られた時間を主体的に有効に活用する」という時間管理意識が弱くなり、結果として長時間労働にもつながっている面がある。背景には、わが国企業の「就社型」人材管理システムが影響しており、キャリア意識が弱く他律的なキャリア形成となり、プロフェッショナリティーを磨き難いとともに、主体的・選択的に人生の時間を活用しようという意識が弱くなっていると考えられる。

事態の打開には、事業環境変化が求めるプロフェッショナルで自律的な働き方を可能にする人材活用の仕組み変革が必要であり、それは結果的にテレワークの有効活用につながる。より具体的には「個々の働き手の“キャリア自律意識の確立”と“時間管理能力の向上”をベースに、顧客価値を実現するために“自らの専門性を活かしつつ貪欲に新たに学び”、“部署や個社の壁を越えてオープンに外部と積極的に協業する”ことが促される職場を創造する」ことが求められる。企業が取り組むべき課題としては、①ハイブリッド・ワーク(オフィスワーク+リモートワーク)、②ハイブリッド人事管理(就社型+ジョブ型)、③主体的能力開発の仕掛け(経営ビジョンの明確化+部署や企業の壁を越えた協業促進+選択的能力開発メニュー)、④自主的時間決定の仕組み、といった点を指摘できる。

さらに、そうした企業の取り組みを迅速に進めるには新たな発想に基づく労働政策が必要であり、①労働時間規制改革(裁量労働制の適用範囲拡大・高度プロフェッショナル制度普及+適正運用のルール作り)、②自律的能力開発の支援(OBトレーナーの中小企業派遣、相互社外留学・在籍出向制度)、③集団的労使関係の再建(従業員代表制の導入と既存労組の「公正代表」性強化)、④非典型的・拡張的労使関係ルールの整備(労働法における労働者概念の拡張・再整理、労働保険・社会保険の再構築、フリーランスに関わる取引の独占禁止法の適用)といった包括的な制度改革・インセンティブづくりが求められる。
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