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アジア・マンスリー 2021年9月号

軟着陸に向かう中国不動産市場

2021年08月26日 関辰一


中国の不動産市場は、政府の過熱抑制策を受けて調整局面へ入った。当面は深刻な調整が起こる状況にはなく、軟着陸に向かうと考えられる。一方で、中長期的な成長のために解決すべき課題は少なくない。

■政府の抑制策で不動産市場は調整局面へ
中国の不動産市場は調整局面に入った。7月の分譲住宅床面積は直近ピークの3月から▲18.7%減少している(右図)。不動産開発投資の増勢も鈍化しており、不動産企業の土地取得面積は前年の水準を大きく下回る。建設機械の販売台数も前年比で減少に転じたほか、日系メーカーの建設機械の平均稼働時間は前年を1割下回る水準へ低下している。7月の主要70都市の新築住宅平均価格は前年同月比+4.6%と、昨年後半並みのペースで上昇しているものの、一部の地域では価格上昇ペースの鈍化が鮮明となってきた。

この主因は、政府による不動産市場の過熱抑制策である。新型コロナウイルス流行後しばらくは、緩和的な金融政策が実施されたこともあって、不動産市場の過熱感が強まり、一部の地域で不動産価格が高騰したほか、不動産企業による土地取得が急拡大した。政府は、不動産企業の過剰投資・過剰債務、住宅価格の高騰を警戒し、2020年夏頃から過熱抑制策を需要側と供給側の両面から講じている。需要抑制策として住宅ローン総量規制や住宅購入規制が実施されたほか、供給抑制策として不動産企業の資金調達条件が厳格化された。

なかでも、2020年夏に導入された「三つのレッドライン」と呼ばれる不動産企業の資金調達条件の厳格化措置が注目される。本措置の内容は公表されていないが、新華社によると以下の通りである。負債の対資産比率は70%以下、純負債の対資本比率は100%以下、手元資金の対短期負債比率は100%以上という三つのレッドラインに従って不動産企業を4分類し、それぞれの債務規模を制限する。三つのレッドラインを超えた「レッド企業」は有利子負債を増やしてはならない。二つ超えた「オレンジ企業」は有利子負債の増加ペースが年5%以内となるよう管理監督される。一つ超えた「イエロー企業」では有利子負債の増加ペースは年10%以内、レッドラインに一つも引っかからない「グリーン企業」では同15%以内に抑制される。本措置を受けて、不動産企業による土地取得面積は大きく減少しているほか、一部の不動産企業は資金繰り難から破綻のリスクに直面しており、その社債がデフォルトするか否かに注目が集まっている。
今後も、政府は不動産市場の抑制を続けると見込まれる。本年7月に発表された「不動産市場の秩序の乱れを是正するための通知」では、今後3年程度にわたり、不動産開発・仲介・賃貸住宅・関連サービスの4分野を対象に、政府方針に反する動きを厳格に取り締まっていくとする内容が盛り込まれた。3年間という期間の長さのほか、従来よりも多くの政府機関(8機関)が不動産市場の責任を負うことになった点が注目される。

こうした措置を受けて、不動産開発投資の増勢は一段と減速する公算が大きい。住宅販売は2020年後半の水準を下回る状況が当面続くと見込まれる。

■当面、深刻な調整は回避
一部では、中国政府の抑制策が不動産バブルの崩壊を招くという見方もある。しかし、以下の3点を背景に、今のところ、不動産価格の急落や不動産開発投資の急減といった深刻な調整が起こる状況にはないと判断される。第1に、総じてみると不動産価格と所得の伸びに大きな乖離は生じていない。不動産価格が所得の伸びと乖離して大きく上昇していれば、何らかのきっかけで不動産価格が急落しかねない。政府が不動産市場を需要側と供給側の両面で抑制するなか、2015~20年の主要70都市の新築住宅価格の上昇率は年平均+7.3%である。一方、同期間の都市部の名目可処分所得は年平均+7.0%で上昇しており、住宅価格の伸びは所得と同等のペースである。コロナ禍に対応するための金融緩和も小規模にとどまり、中国では米国ほどの住宅価格の高騰はみられていない。

第2に、経済全体に占める不動産開発投資のシェアは横ばい圏内にコントロールされている。2008年のリーマン・ショックから2014年頃まで、不動産市場への資金流入に歯止めがかからず、不動産開発投資のGDP比は上昇を続けた。この反動でいずれ不動産開発投資が急減するリスクが懸念された。もっとも、2014年以降の不動産開発投資は経済成長に見合った水準に抑制されており、不動産市場は軟着陸しつつある。この背景として、2013年に住宅購入規制やキャピタルゲイン課税の徴税強化など一連の需要抑制策が導入されたことに加え、シャドーバンキングの抑制によって不動産企業の資金調達が抑制されるなど、供給面の抑制策が採られたことも大きい。近年、銀行理財商品や信託融資など、銀行融資を代替するシャドーバンキングの規模は縮小傾向にあり、不動産企業の資金調達におけるシャドーバンキングへの依存度も低下している。

第3に、都市化や所得上昇に伴う住宅の質の高度化が住宅需要の堅調な拡大を下支えするとみられる。近年、農村部から都市部への人口流入は、毎年1,000万人を上回る規模で続いているが、2020年の都市化率は64%にとどまり、一段と上昇する余地が大きい。また、所得水準の上昇に伴う潜在的な住み替え需要も大きい。人々は、老朽化したマンションから徐々に新築マンションに住み替えつつある。

■持続的な成長のために解決すべき課題
一方で、中長期的な視点からみると、中国の不動市場は様々な課題を抱えている。まず、出生数は政府想定以上のペースで減少しており、人口が減少に転じるタイミングが前倒しとなる可能性が高い。中国不動産市場が長期的な成長を遂げるためにも、総合的な子育て支援など人口動態を念頭に置いた政策が必要不可欠である。

また、一部で不均衡な成長がみられ、バブルの様相が深刻化している地域もある。中国の不動産情報を提供する安居客によると、不動産市場が過熱している地域として、例えば、8月の上海市南京西路の中古住宅価格は1㎡当たり13万2,129元(約225万円)と前年同月比+27.4%上昇した。一方、東京の港区六本木の中古住宅は1㎡当たり134万円である(マンションマーケット調べ)。これを踏まえると、当該地域で大きな価格調整が生じる可能性は排除できない。こうした地域の価格安定化を図っていくこと、均衡のとれた成長を目指していくことが求められる。

三点目としては、不動産という資産の偏在が注目される。任澤平・東呉証券首席エコノミストがまとめた「中国住房存量報告2021」によると、2015年の所得水準が最も高い10%の家計は、都市部の住宅床面積の19.6%を使用する。一方で、所得水準が低い20%の家計は、全体の7.2%を使用するに過ぎない。固定資産税や相続税の導入などを通じて、格差を是正することが長期的な課題である。このように、中国不動産市場は調整期に入り、軟着陸に向かうとみられるが、その後も持続的に、バランスよく成長するためには、様々な課題を解決していかなければならない。
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