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ビューポイント No.2021-005

最低賃金引き上げの地域経済・雇用への影響分析ー2021 年度地域別最低賃金改定への提案

2021年06月28日 山田久


6月18 日に閣議決定された「骨太の方針2021」では、地方活性化に向けた重要施策の一つに最低賃金の引き上げが位置づけられた。都道府県別にみた最低賃金変動率と労働生産性変化率の間に表面的な相関はみられないものの、地域別の産業構造特性の影響を除いてみると、最低賃金の引き上げは生産性向上に一定程度プラスに影響してきた可能性が示唆される。

最低賃金の引き上げが労働生産性の向上に作用したとしても、雇用量を減らす形であれば望ましいとは言えない。そこで、雇用への影響について分析すると、2019 年までの景気拡大局面では人手不足感の強い状況下、最低賃金の引き上げは主にパートの労働供給量を増やす方向に作用した可能性が示唆される。一方、コロナ禍で景気が悪化した2020 年には、最低賃金は据え置かれたものの売上減で人件費負担増となり、雇用量を減らす方向に作用した。ただし、特筆されるのは、人手不足にある都道府県のみの分析では、最低賃金の雇用へのマイナス影響は確認できないことである。

最低賃金制度は元来貧困対策の一環であり、所得格差の是正や所得の底上げには一定の効果があった。具体的には、パートタイム労働者の時給レベル別の分布状況の変化をみると、下限が切り上がってきたことが確認され、低賃金労働者が多いとみられる従業員5~9 人の零細企業における労働者の地域別賃金格差には縮小傾向がみられる。

上記の分析の含意としては、政府が最低賃金の引き上げを地方活性化に向けた重要施策の一つに位置づけ、その持続的な引き上げを推進するという基本方針は妥当といえる。最低賃金は一義的には貧困対策に位置付けられることも踏まえれば、経済論理を離れても、これを持続的に引き上げることは望ましい。もっとも、最低賃金の引き上げは労働生産性にプラスに働くにしても、企業業績にとっては直接的な押し下げ要因であり、景気動向や労働需給の状況次第では雇用量に対してもマイナスに影響する可能性には十分な留意が必要である。すなわち、企業業績や雇用へのマイナスを極小化すべく、中小企業の設備投資や労働者の能力開発、労働移動に対する支援を同時に行うことが必要である。加えて、企業に過度なストレスがかからないように景気動向や地域の状況に配慮していくことも重要である。

以上を踏まえた、2021 年度地域別最低賃金改定の在り方についての提案は次の4点。
① 2021 年度の最低賃金引き上げ率は2%程度と標準とする。ただし、有効求人倍率が1を下回る都府県の多いAランクや雇用過剰感が強い県ではやや低い引き上げ率(例えば1%)を設定する。
② コロナ禍の影響を強く受ける特定産業で特例として最低賃金の据え置きを認める。具体的な特定産業の範囲については各都道府県の地方最低賃金員会で決定する(同時に、特定産業での収入が一定レベルを下回る労働者に特別給付金などの生活支援措置を講じる)。
③ 生産性向上のための投資促進策、人材育成・労働移動支援策を充実させる。
④ 2022 年度以降に向けて、中期的な最低賃金引き上げ方針の提案を行う専門委員会の設置を進める。加えて、最低賃金制度と産業政策・雇用政策・福祉政策との整合性を図るための省庁横断的な委員会を立ち上げる。


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