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人生100年に向けたキャリア教育支援

2021年06月08日 小島明子


 2021年4月には、高年齢者雇用安定法が改正され、従業員に対する70歳までの雇用確保措置が努力義務となった。具体的には、(1)70歳までの定年引き上げ、(2)70歳までの継続雇用制度の導入、(3)定年廃止、(4)高年齢者が希望するときは、70歳まで継続的に業務委託契約を締結する制度の導入、(5)高年齢者が希望するときは、70歳まで継続的に、事業主自ら実施する社会貢献や、事業主が委託、出資(資金提供)等を行う団体の社会貢献事業に従事できる制度の導入が求められている。

 日本経済団体連合会(i)によれば、多くの企業が高齢社員のモチベーション低下や組織の新陳代謝などを今後の課題として挙げている。少子高齢化に伴う労働人口の減少や、年金受給年齢の引き上げの必要性などから、70歳までの雇用確保措置が義務になる可能性はゼロではなく、高齢社員のモチベーションの維持・向上のために、人事制度設計の見直しも必要となってくるだろう。あわせて、社会全体としては、高齢になっても、生産性の高い働き方が実現できるよう教育支援を行っていくことが重要だといえる。

 日本における教育支援としては、教育訓練給付金の制度が設けられており、資格取得の際に活用ができるが、利用率は決して高いとはいえない (ii)。利用率が低い理由としては、教育訓練給付金に対する認知度や手続きの煩雑さ、自己負担の高さなどが理由として考えられる。例えば、一般教育訓練給付制度においては、受講後に給付を受けられるのは、教育訓練施設に支払った教育訓練経費の20%に相当する額だけであるため、残りの80%の金額は自己負担である。申し込みたいコースの受講料が高い場合は、経済的に余裕がなければ、利用は難しいのが現状である。

 シンガポールでは、シンガポール国民のスキル習得の支援を目的のために、スキルズ・フューチャーというプログラムが提供されている(iii)。スキルズ・フューチャーの対象は学生向け、アーリーキャリア(若手の社会人)向け、ミドル世代向けなど、年代によってさまざまなコースが提供されている。25歳以上のシンガポール国民には、全員に500シンガポールドルが、プログラムのオンライン口座に支給され、煩雑な申請手続きはない。さらに、40歳以上のすべてのシンガポール国民に対しては、スキル習得プログラムの多くが最大90%の助成を受けられるようになっているため、非常に手厚い支援で受講に伴う経済的負担は小さい。

 シンガポールのスキルズ・フューチャーはあくまでも一例であるが、働く高齢者が増え続けることが確実に予想される日本においても、ミドル・シニア世代に対する教育支援をさらに拡充する必要があると考える。

(i)https://www.keidanren.or.jp/policy/2016/037_honbun.pdf
(ii)第一生命研究所が実施した調査によれば、教育訓練給付制度を利用した人は約2割である。
(iii)https://www.skillsfuture.gov.sg/AboutSkillsFuture

※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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