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JRIレビュー Vol.6, No.90

子どものウェルビーイング実現に向けて 子ども・親・支援者の声を聴く

2021年05月28日 池本美香


 株式会社日本総合研究所では2019年度より、子どもの権利条約を起点とした政策への転換を推進すべく「子ども政策研究会」を立ち上げ、子どもの問題に関心を持つ調査部、創発戦略センター、リサーチ・コンサルティング部門の研究員の連携・情報共有を図っている。本特集は、その2年目の活動成果として、外部講師による勉強会の講演録と、子どものウェルビーイングの実現に向けた課題を取り上げた論文を収録した。ウェルビーイングとは、身体的・精神的・社会的に良好な状態にあることを意味する概念で、「幸福」とも訳される。ユニセフ・イノチェンティ研究所が2020年9月に発表した報告書(注)によれば、日本の「子どもの幸福度」の総合順位は38カ国中20位で、なかでも精神的幸福度(生活満足度が高い子どもの割合、自殺率)が37位と低かった。
 わが国では、2019年の出生数が前年比5.8%減と1975年以来の減少幅となり、2020年にはさらに前年比2.9%減で過去最低となったことが注目を集めている。その一方で、子どもの状況悪化や精神的幸福度の低さといった問題は、広く共有されているとは言い難い。貧困、虐待、いじめ、不登校、自殺、保育者や教員による虐待、産後うつ、ヤングケアラーなど、コロナ禍も加わって状況は深刻化しているが、そうした心の問題は外からは見えにくい。そこで、本特集では、子どもおよび子育てにかかわる大人が抱える様々な課題を明らかにし、それらに対する国内外の先進的な取り組みをとり上げ、国や自治体の施策検討を促すことに主眼を置いた。

 福丸由佳氏からは、子どもおよび子どもにかかわる大人に向けた心理的支援に関するご講演をいただいた。アメリカでは、虐待事例の増加に対して、ハイリスク世帯を対象に妊娠期から家庭訪問を行って予防的な支援を行うプログラム(ECS)や、離婚を経験する子どもと親を対象とした心理教育プログラム(FIT)、親のほか教師、保育者、医師など、子どもとかかわる大人に対して、子どもとの間により温かい関係を築くためのスキルを習得するプログラム(CARE)があるという。わが国では、子どもの貧困率、虐待対応件数、待機児童数といった数字に目が向きがちで、子どもや、子どもとかかわる大人が置かれている状況を把握し、問題の発生を予防するための支援や、トラウマ体験の克服に向けた支援などは遅れている。福丸氏は、アメリカのプログラムを日本に広める実践的な活動にも取り組まれており、国や自治体がこうした心理的支援にも力を入れることへの期待が語られた。
 泰平論文では、当社主催の「まちなか自動移動サービス事業構想コンソーシアム」におけるICT活用型デマンド交通の実証から得られた知見が紹介されている。妊婦の移動、乳幼児を連れた移動、子どもだけの移動には様々な制約が伴う。それは、子どもの体験機会の制約や親子の孤立などの問題につながりかねない。こうした背景から、今回の実証においては、子育て世帯や子どもの利用が多くあったことが報告されている。ICTの活用で、こうした移動課題が解消に向かうことが示唆されており、国や自治体レベルでも子どもや親の移動ニーズの実現に向けた検討が期待される。
 2本の池本論文では、まず保育の質確保にあたって、保育者の採用システムに多くの課題があることを指摘している。とりわけ、海外では子どもの安全確保の観点から、保育者採用時に、犯罪歴等のチェックを義務化しているのに対して、わが国では保育士登録の取り消し漏れなど、十分に安心できる制度となっていない。公立学校ではわいせつ行為等により懲戒処分等を受けた者が2018年度に過去最多となり、対策が検討されている。保育者も教員同様の対策強化を急ぐ必要がある。
 加えて、子どものウェルビーイング実現にあたって、情報やコミュニケーションの在り方を見直す必要性について論じている。子どもや親の状況が深刻化している背景の一つには、情報・コミュニケーション不足があり、国や自治体が子どもや子どもにかかわる大人の声を聴くこと、必要な情報を入手しやすくすること、子どもや親に継続的に寄り添い、信頼関係を築きながら、相談を幅広く受け止める伴走型支援や、同じような立場にある人同士の支え合い(ピアサポート)を促す環境づくり、さらには子どもの声を集め、必要な対策を求める独立機関(子どもオンブズマン╱コミッショナー)の設置などを提案した。
 子どものウェルビーイングの実現には、困難を抱える子ども、親、支援者の声を丁寧に聴き、温かい関係性のもとで必要な支援を届けることが求められている。新型コロナウイルス感染症はいまだ収束が見通せない状況にある。引き続き子どもをめぐる政策課題について追究していきたい。


(注)レポートカード16『子どもたちに影響する世界:先進国の子どもの幸福度を形作るものは何か(Worlds of Influence:Understanding what shapes child well-being in rich countries)』。

(2021. 4. 21)
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