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【ニューノーマルエコノミーシリーズ】
教育編

2021年05月17日 大森充、Life is Tech! 取締役 讃井康智氏




新型コロナウイルス感染拡大は我々の生活を大きく変え、10年先の未来を目の前に運んできました。また、企業経営における価値観も変わりました。日本の名だたる経営者は「人が幸せになる」経営を訴え、持続可能な成長を模索しています。その結果、少しずつですが、新たな産業や新たな事業の芽が出てきています。そこで、「ニューノーマルエコノミー」シリーズと称して、各業界の第一線で活躍している方々に、ポストコロナ時代に向けた新たなビジネスについてお話を伺うこととしました。

第三回目は、日本の教育業界の変革を目指すEdTech(エドテック)スタートアップのLife is Tech!(ライフイズテック)取締役の讃井さんに、「コロナ禍における“学び”の現状と課題、今後の展望」を伺いました。讃井さんは東京大学教育学部を卒業後、経営コンサルティング会社を経て東京大学大学院教育学研究科に進学され、2010年に創業メンバーとしてライフイズテックに参画し、最近は全国の中学・高校にプログラミング教材「ライフイズテックレッスン」を提供しています。また、NewsPicks教育プロピッカーでもあり、プログラミング教育をはじめ21世紀型教育について多くの情報発信をされています。



(大森)
3回目の緊急事態宣言となり、コロナウイルス感染によるパンデミックの終息はまだ見えない状況ですが、コロナ禍における「学び」の現状について教えていただけますでしょうか。

(讃井)
学校教育と学校外教育とに分けてお話しします。まず、学校教育においては、昨年のコロナ禍当初は「オンライン教育がしたいけど、パソコンやネットワーク環境がないからできない」といった状況で、パソコンなどのオンライン環境配備による格差が生じました。そのような状況を受け、文科省のGIGAスクール構想では1年間で4,000億円の投資をして、この1年でオンライン教育の環境整備は飛躍的に進みました。

(大森)
パソコンやネットワーク不足といった環境面での課題が、1年で解決されたのは素晴らしいですね。

(讃井)
はい、私もそう思います。2021年はそのようなオンライン環境が一定整備されたアフターGIGAスクール元年と捉えるべきだと思っています。生徒にとってパソコン一人一台の環境下で学ぶことは初めてですが、先生にとっても初めてです。今後はパソコン等のITツールをうまく活用できる学校とそうでない学校の「活用格差」が生じる可能性があり、学校教育では目下、活用にあたっての課題を解決していく必要があります。

(大森)
2021年はアフターGIGAスクール元年と理解し、ITリテラシーを持ち、ツールを活用できる学校が子供の学習体験を良いものにできそうですね。学校外教育はどう思われますか。

(讃井)
学校外教育でもコロナ禍でオンライン化が進みました。学校外におけるオンライン化は事業機会の拡大につながった例がいくつも見られます。中には、これまで国内にサービスを閉じていた企業が、オンライン化により海外にもサービスを展開した例も出ました。ただし、学校外教育の主な担い手である学習塾の中にはオンライン化に対応できていないところも多くありました。仮に、オンライン化できていたとしても、リアルの体験に劣るサービス提供となり、顧客の満足度を維持・向上できている学習塾は少ない印象です。

(大森)
オンラインサービスを単なるリアル体験の代替にしないということが重要ですね。リアルでやっていたことをオンラインにしただけではさすがに満足度を上げることは難しいですものね。

(讃井)
まさにそこが重要です。学校または学校外問わず、リアルとオンラインはそれぞれ特徴がある別の手段と捉えた上で、最適なサービスを作り直すことが必要です。その際、重要になる観点が、子供の学習体験(Learning Experience : LX)の設計です。子供たちの学習体験がより良いものになるためにはどうすればいいかを起点にして、デジタルとリアルのベストミックスを探究することが最も重要です。

(大森)
学校も学校外も、子供の学習体験を最適化するためのリアルとデジタルのベストミックスを探すということが求められているのですね。
リアルとデジタルのベストミックスを探すにあたり、考え方の手順などはありますか。

(讃井)
はい、「ITツールをどう活用するか」という手段論というよりは、「子どもたちのために自分たちはどのような学びを提供すべきか」というビジョンを考えることから始めるべきと思います。学校教育においては、文科省がおおむねの方針は掲げているものの、個別のビジョンは各教育委員会や学校に委ねられています。例えば、自治体で言えば熊本市、奈良市、学校で言えば武蔵野大学中学・高校や品川女子学院等が、コロナ禍でもビジョンに基づいた教育をしっかり提供できていたと思いました。

(大森)
確かに、コロナ前からの話にはなりますが、公立学校でも千代田区立麴町中学校では、経産省「未来の教室」実証事業の対象校として、AIを導入した自己調整学習(アダプティブラーニング)にチャレンジしていたりしますね。また、チーム担任制の導入(固定担任制の廃止)、単元テストの導入(定期テストの廃止)、宿題の廃止等、常識に捉われない施策によって独自の教育ビジョンに基づいた改革を推進している印象があります。これからデジタル時代に突入していきますが、デジタル技術を活用して各学校の教育ビジョンをどのように実現していくべきかについてアドバイスをいただけますでしょうか。

(讃井)
我々ライフイズテックでは、教育のDX(デジタル・トランスフォーメーション)を大きく3つに層別しています。1つ目は業務の効率化を目的としたDX。これは先生が生徒に教育を提供する上で業務時間を削減できるような取り組みです。2つ目は学習活動のDX化です。これは既存の学習内容の延長線上で、デジタルとリアルを組み合わせた授業を生徒に提供することで、より良い学習体験を作ることを意味します。そして、3つ目は創造のDXです。これはこれまでになかった学習体験を創り出すことを意味しています。デジタル技術の進歩によって、多くのことができるようになりました。例えば、弊社の「ライフイズテックレッスン」というEdTechを使ってPythonやAIをどこの学校でも学べるようにするとか、VRを活用して世界中から参加できる文化祭を作るという発想はこれまではなかったと思いますが、そのような学習体験もすでに実現可能になっています。また、これら3つのDXの前提として、生徒だけでなく、教職員の分も含めて、パソコンやネットワークなどIT環境が整備されることは必須要件です。

(大森)
なるほど。DXを段階に分けて、自分たちが実現すべきDXがどれかを考えるということでしょうか。

(讃井)
そうです。まず目的を設定して、今、自分たちはどの段階にいるのかを認識することは大切です。
その上で、DXについて考える際も重要なことは同じで、子供たちにどんな教育を届けたいかというビジョンや子供の学習体験(LX)をどう向上できるかという思考です。デジタルとリアルのベストミックスを探すにあたっては、EdTechやオンラインだから良い、逆にリアルだから良い、といった単純な二項対立の考えではなくて、目的に立ち返って、デジタルとリアルそれぞれの優位性を選びとっていく発想が必要です。



(大森)
ありがとうございます。それでは最後に、教育業界に従事する皆さんにポストコロナとなるニューノーマル時代で活躍するためのメッセージを頂けますか。

(讃井)
はい、我々ライフイズテックが提供しているようなEdTechや教育のDXの目的は「真の個別最適な学びの実現」にあると考えています。それはそれぞれの子供たちごとに最適化された学びを提供できることを意味します。子供たちの興味や関心にあった学び方もあれば、探究学習でどのようなテーマで探究していくかといった取り組む課題の最適化、進学や就職など進路の最適化もあれば、どこで学ぶのが一番良いかという居場所の最適化もあります。特に居場所については同一場所での一斉教育は良い面もありますが、悪い面もあり、その結果として多くの不登校の子どもたちを生んできました。その状況を受けて、公立学校でもオンライン校があって良いのではないかという議論もあります。通っていた学校でいじめなどがあって勉強する場所をなくした子供たちが集まれるオンライン学校が地域に1つあると、救われる子供は絶対に増えるはずです。これからの時代、ITを活用することで子供たちの学習する権利(学習権)をどう保障できるかが我々大人に与えられた課題だと思っています。まだ、法律や制度、仕組みや考えが追い付いていないですが、子どもたちがもっと学べて、もっと生きやすい社会を作るために、大人が立場を超えて尽力していく必要があると思います。



今回はライフイズテック取締役の讃井さんにコロナ禍における「学び」の課題やこれからの時代の「学び」のあり方についてお伺いしました。内容を要約すると、以下の3点になります。

教育・学習業界に関わる方々に対し、ポストコロナに向けたこれからの時代の「学び」について、ヒントをいただけました。讃井さん、ありがとうございました。
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