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JRIレビュー Vol.7,No.91

本格的なデジタル社会の実現に向けたデジタル・リテラシーとは

2021年05月11日 岩崎薫里


わが国では、デジタル技術・サービスの利活用が遅れている領域が少なからず存在し、課題解決や利便性向上、さらにはわが国全体の生産性向上の機会が阻害されている。その要因は多岐にわたるが、人材面に着目すると、IT専門人材の不足に加えて、使い手側のデジタル・リテラシーに問題があることの影響が大きい。たとえデジタル技術・サービスが導入されても、使えない人が多ければ、利用は限定的にとどまりデジタル化は円滑には進まない。あるいは、使えない人が多いと、コストに見合った成果が期待できないとしてデジタル技術・サービスの導入意欲も抑制される。

個人および社会全体が豊かさを享受できるデジタル社会を実現するには、すべての国民が一定レベルのデジタル・リテラシーを備えている必要がある。「読み書きそろばん」のデジタル社会版といってよい。全国民に求める以上、誰もが習得可能な最低限のレベルでなければならない。本稿ではこのようなデジタル・リテラシーを「基礎的デジタル・リテラシー」と呼ぶこととする。具体的な習得レベルは、①デジタルツールの基本操作ができる、②利活用の知識をもつ、③リスクを回避できる、の3点である。わが国に求められるのは、第1に「基礎的デジタル・リテラシー」のない人をなくすこと、第2に「基礎的デジタル・リテラシー」の不十分な人にリテラシーを具備させること、である。

大まかな試算では、「基礎的デジタル・リテラシー」のない人は高齢者を中心に1,140万人存在する。このうち、79歳以下の660万人には、個別の事情を勘案したうえで「なし」の状態から脱してもらう必要がある。一方、「基礎的デジタル・リテラシー」が不十分とは、スマートフォンでLINEを使うことができてもインターネット・バンキングの操作方法がわからない、課題解決にどのデジタル技術・サービスをどのように使えばよいかわからない、ウイルス対策ソフトを利用しなかったり不審なアプリをダウンロードしてしまったりする、などである。「基礎的デジタル・リテラシー」が不十分な人を定量的に把握するのは難しいが、わが国では国際的にみて多いと推測される。

デジタル先進国が行ってきた主要なデジタル・リテラシー向上策として主に、①学校教育のデジタル化、②労働者の学び直し、③高齢者向けプログラム、の三つが挙げられる。わが国では、学校教育のデジタル化については「GIGAスクール構想」、高齢者向けプログラムについては「デジタル活用支援推進事業」が始まった。しかし、労働者の学び直しについては、本格的な取り組みはいまだみられない。労働者に「基礎的デジタル・リテラシー」を具備させるための研修を、組織へのデジタル技術・サービスの導入と同時に大々的に実施する必要がある。

デジタル技術・サービスの使い手に、「使いたくない」「面倒」といった意識が強いと、デジタル・リテラシーの向上意欲も生じないであろう。そこで重要になるのが、使い手としての国民がデジタル化を「自分ごと」と捉えるための取り組みである。一方、「基礎的デジタル・リテラシー」のない高齢者の習得意欲を高めるには、それに加えて①デジタル技術・サービスに対する不安を可能な限り払しょくする努力、②積極的に使いたくなるようなデジタル・サービスの提供、③子供や孫など身近な存在からの働きかけ、が有効と考えられる。

デジタル・リテラシーの引き上げにおいて理想とすべき一つの姿としてスウェーデンがある。わが国とスウェーデンを比較すると、スウェーデンのほうが「基礎的デジタル・リテラシー」が不十分な人の割合が大幅に低いが、それ以上に特筆すべきは、属性による「基礎的デジタル・リテラシー」の格差が少ない点である。わが国としても、「基礎的デジタル・リテラシー」の不十分な層を特定したうえで、その層に重点的に対応策を講じることで全体的な底上げを図ることが求められる。

わが国の「読み書きそろばん」能力は世界的にみても高い。デジタル・リテラシーにはデジタルツールの操作力だけでなく、課題発見力・解決力、批判的思考など、読解力や数的思考力と共通する能力が求められる。少しの努力でわが国のデジタル・リテラシーの水準が世界トップクラスに躍り出ることは十分期待でき、現状を悲観する必要はまったくない。それよりも、デジタル社会における「基礎的デジタル・リテラシー」の重要性を国民一人一人が理解し、それを具備するために自ら努力し、その手助けを、政策面を含め各方面から行っていくことが肝要であろう。
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