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RIM 環太平洋ビジネス情報 Vol.21,No.81

サプライチェーンの脱「中国依存」はどこまで進んだか-米中対立と新型コロナウイルス感染拡大のインパクト

2021年05月12日 三浦有史


アメリカの対中輸入は関税引き上げの影響で2019年に大幅に減少したものの、2020年は輸入をけん引する役割を果たした。新型コロナウイルス感染症が発生しなければ、アメリカの輸入に占める中国の割合は2020年に13%程度に低下する可能性があったが、中国が感染拡大を早期に収束させたことにより、18.6%に上昇した。そうしたなかでも、中国の生産・輸出機能を代替する動きがみられるのはベトナムと台湾に限られる。なかでも、ベトナムの台頭は著しく、「一人勝ち」の様相を呈している。

2020年4月以降の対中輸入の前年同月比伸び率と依存度に注目すると、①中国依
存が強まる品目(プラスチック)、②中国依存が変わらない品目(機械、がん具・ゲーム機)、③中国依存が弱まる、つまり、脱「中国依存」が進んでいる品目(布・衣類)、④脱「中国依存」が進んだものの、そのスピードが鈍化しそうな品目(電気・電子機器、家具・寝具)の4つに分けられる。追加関税と新型コロナウイルスの感染拡大というサプライチェーンを揺るがす劇的な環境変化が起きたにもかかわらず、ノートパソコンとスマートフォンでは中国を中心とするサプライチェーンを見直す動きは現れていない。

アメリカの中国依存度が著しく低下している品目をみると、中国に代わる生産・輸出拠点として台頭しているのはベトナムである。サプライチェーンの再編は中国との地理的近接性を無視するかたちでは進まない。経済協力開発機構(OECD)の付加価値貿易統計TiVA(Trade in Value Added)によれば、ベトナムの製造業の輸出のうち国内で生産された付加価値は半分を占めるにとどまり、残りは外国由来の付加価値で、なかでも中国への依存度が高い。

国連貿易開発会議(UNCTAD)によれば、2020年の中国の対内直接投資はアメリカを抜いて初めて世界一の投資受入国になった。直接投資の動向にサプライチェーン再編に対する各国企業の中長期的な戦略が投影されていると考えれば、サプライチェーンにおける中国の地位は当分揺るぎそうにない。中国を代替する可能性があるベトナム、マレーシア、タイではいずれも中国からの投資が増えているものの、ベトナム以外は投資が必ずしも輸出産業に向けられているわけではないため、対米輸出が増えない構造となっている。

アメリカのバイデン大統領は、2021年2月末、①半導体、②EV(電気自動車)向け高性能バッテリー、③医薬品、④レアアース(希土類)を含む重要鉱物の4品目のサプライチェーンを見直す旨の大統領令に署名した。しかし、国内生産能力の増強が期待される半導体以外は、中国に依存しない安定的なサプライチェーンの構築は難しい。

習近平政権は、「中国依存」を深めさせることによって孤立を回避出来ると見込んでいる。バイデン政権のサプライチェーン見直しが中国に与える影響は限られるものの、同政権が、①雇用重視の保護主義政策、②対中国包囲網の構築、③人権重視外交を鮮明にすることによって、脱「中国依存」は長期的かつ不可逆的な動きに発展する可能性がある。
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