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ビューポイント No.2021-002

コロナショックが促すジェンダー平等-働き方改革・男性家事参画・女性管理職登用の再始動を

2021年04月23日 山田久


「シーセッション」と言われるように、新型コロナイルス感染症の流行は女性の雇用に大きな打撃を与えたが、その背景にはコロナ禍の負の影響が宿泊・飲食やレジャーなどの「対面型サービス」に集中して現れ、正にこの分野に女性の非正規労働者が多く働いていたという事情がある。また、パンデミックは、感染リスクを抱えながら現場の最前線で働く各種エッセンシャルワーカーに女性、かつその非正規労働者が多いことを再認識させ、男女間や正規・非正規間の格差が諸外国対比大きいわが国の処遇制度のあり様を、厳しく問いかけることになっている。

パンデミックを機に多くの既婚女性が労働市場から退出する動きがみられたが、それは、女性労働力の「M字カーブ」が解消に向かうという、近年進んでいた望ましい動きが足踏みを余儀なくされていることを意味している。この背景には、育児をはじめとする家族に対する「無償ケア労働」が、わが国では特に女性に偏っているという事情が大きい。人口減少・高齢化の進行が予想されるなか、既婚女性の本格就労が妨げられることは、ますます希少になる国内労働力確保の面で大きな損失であり、社会保障財政健全化の面でもマイナスでなる。

「無償ケア労働」が特に女性に偏っていることの弊害は、出生数の落ち込みという形でも表れている。OECD 加盟国で、「男性の1日のうちに家事・育児に費やす時間割合」と「合計特殊出生率」の関係をみると、正の相関が確認できる。人手不足経済の継続で高まり始めていた女性労働力率の上昇がコロナ禍でストップし、さらに無償ケア労働の男女偏在が存置されるもとで女性の子育て負担が高まれば、わが国の少子化に一層拍車が掛かりかねない。

「シーセッション」や「少子化進行」といった、コロナ禍で噴出した諸問題の背景には、「性別役割の固定化」という日本社会の構造問題がある。「ジェンダー・ギャップ」の象徴は男女賃金格差が大きいことであり、その理由は①正規・非正規の賃金格差と女性の非正規比率の高さ、および、②男女間の賃金カーブ格差、に求められ、これらはいずれも日本型の「就社型雇用システム」と「性別役割の固定化」を背景としている。すなわち、“終身雇用”を前提とする正社員雇用を守るため、非正規雇用との処遇格差が大きくなり、“終身雇用”と表裏一体の長時間労働・会社都合の転勤は、「男は会社・女は家庭」という性別役割の固定化を前提としており、女性の多くが非正規雇用で働くことになる。加えて、女性は正社員で働いても、結婚や出産を機に退職するとの想定のもと、昇格・昇給が抑制されてきた。

「就社型雇用システム」と「性別分業家族システム」の組み合わせは、男性現役世代の人口が減少基調に転じるなか、その経済的な成立基盤を失っている。今後女性に十分な機会を与え、積極的に登用して能力発揮を推進することは、日本企業の成長にとって不可欠の課題となっている。

コロナ危機は変革のチャンスももたらしており、とりわけ必要性が謳われながら遅々として進まなかったテレワークが、一斉に導入されたことの意義は大きい。元来テレワークが求められるのは、現役男性人口の減少で女性やシニアのコア人材化・戦力化が必要になっているという事情がある。テレワークは、生活上の制約のもとで仕事との両立を可能にする有効かつ不可欠な仕組みであり、今後、テレワークにより柔軟な勤務体系を提供できる企業とそうでない企業との間で、人材獲得力に大きな差がついていくだろう。

ジェンダー平等の実現・女性活躍の推進に向けて企業・個人の行動変容を促す政策的な取り組みとして、①「働き方改革2・0」の推進(長時間労働の是正を超えて労働時間の自主的な決定が可能な制度整備、教育訓練投資の男女機会均等の保証、出産・介護などのライフイベント発生時の就業継続支援措置の充実)、②男性の育児・家事参画の推進(マスメディアによる啓蒙活動、働き方改革とセットでの男性の育児・家事参画の奨励)、③女性管理職比率引き上げ目標など企業統治面からのインセンティブ(コーポレートガバナンス・コードの改定を契機とする総合的な女性活躍促進策)、が重要である。
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