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【農業】
データで伝える農業の「作るワザ」と「売るワザ」

2021年04月14日 前田佳栄


 テキスト・画像・動画等の多様なデータを活用することで、農作物の栽培ノウハウの分析が大いに進展してきている。気温・湿度等の環境データや開花日・葉色等の農作物の生育データを基に、収穫日や収量を予測するシステムや、ドローンに搭載したセンサーのデータを活用し、生育状況を分析する技術等が続々と実用化されている。ただ、農業者の勘や経験(=「作るワザ」)を形式知化するためには、こうした定量的なデータだけでは不足がある。そこで、普段の作業の中で農業者の動きや音声を伝達・記録するツールとして、スマートウォッチ、スマートグラス等のウェアラブルデバイスに着目している。

 スマートグラスは、メガネの形状をしたIT機器だ。マイクとスピーカーがついているもの、ディスプレイを備えたもの等、いくつかのタイプがある。農業者は両手を自由に使えるうえに、遠隔から作業指示を受けられる。これを使えば、例えば果樹の剪定の際にどの枝を切るかといった、位置や数の判断を経験豊富な農業者に仰ぐことで、「作るワザ」が経験の浅い農業者に伝達できる。さらに、逐一判断を仰ぐと作業効率が落ちてしまう場合には、スマートグラスに映るマニュアル等を活用して、事前にある程度作業を理解しておくことも効果的だ。ディスプレイ上で作業マニュアルを表示できる機種を活用する場合には、スマートグラス自体が「作るワザ」の伝道者になってくれることになる。なお、ディスプレイを見るために普段とは異なる目の使い方をしなければならないことも事実で、単純に作業の流れだけを撮影するには、スマートフォンやアクションカメラのほうが適している場合もあるだろう。

 こうしたデバイスが活用できるのは「作るワザ」の継承だけではない。撮影した農作業の様子をSNSで発信することで、消費者に対して農業者のこだわりや創意工夫を伝えることが可能になる。いわば、新たな顧客、市場を開拓するという「売るワザ」にも役立つ。最近はコロナの影響もあり、リモートでの収穫体験が人気になりつつある。スマートグラスでは、手元を映しながら作業ができるので、画面越しに顧客に選んでもらった農作物を実際に収穫して、それを産地から直送するといった使い方ができる。この場合、通常の撮影では、撮影者と作業者の2名が必要となるが、スマートグラスを使うことで、1名で配信と作業が同時にできるというメリットがある。

 もう一つ、重要なことがある。農業のデジタル化により、必ずしも農村地域に居住していなくても、農業関連ビジネスに携わることできるようになるという点だ。データの分析や編集は農村地域に行かなくてもできるからだ。従来は農業に携わろうとすると農村地域に赴いて現地で作業をする必要があったが、新たなデバイスを活用することで、都市に住みながら次世代型の「半農半X」にチャレンジできる。例えば、長時間の作業の動画から作業のノウハウの詰まった部分を短く整理する、消費者に受けそうな面白い箇所を抜き出して配信する、といった編集作業は重要な役割を果たす。今後、データ活用という新しい「農」への関わり方を増やすことで、農業は飛躍的に魅力的な産業になる。


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※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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