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介護保険施設等における安全管理体制等のあり方に関する調査研究事業

2021年04月12日 石田遥太郎紀伊信之、高橋孝治、城岡秀彦、二宮拓太


*本事業は、令和2年度老人保健事業推進費等補助金 老人保健健康増進等事業として実施したものです。

1.本調査研究事業の背景
 介護老人福祉施設や有料老人ホーム等については、今後、入所者の重度化や医療ニーズへの対応に伴うリスクの増大が考えられ、平成30年度介護報酬改定に関する審議報告書においても、「施設でどのようなリスクが発生しており、そのリスクにどのように対応しているかなど、その実態を把握した上で、介護事故予防のガイドライン等も参考に、運営基準や介護報酬上どのような対応を図ることが適切なのかを検討すべきである。」と指摘されている。
 平成30年度介護報酬改定検証・研究事業「介護老人福祉施設における安全・衛生管理体制等の在り方についての調査研究事業」では、介護老人福祉施設における介護事故等のリスクマネジメントおよび自治体への介護事故等の報告に関する実態把握を行うともに、入所者が安全で安心した生活を送れるような施設の安全管理体制や自治体との連携の在り方等が検討され、令和元年度老健事業「介護保険施設等における安全管理体制等のあり方に関する調査研究事業」では、介護老人福祉施設から行政への報告様式が作成され、また有料老人ホーム等における事故報告等の状況について調査の実施がなされている。
 現在、介護老人福祉施設においては、指定介護老人福祉施設の人員、設備および運営に関する基準上に定められた事項に沿い、各自治体がそれぞれ条例等でルールを定め運用している。
 しかし、事故報告については、介護老人福祉施設で事故が発生した場合に、介護老人福祉施設側は市町村に連絡(報告)することが義務づけられているが、自治体から国への報告義務はない。加えて、運用上の課題として、介護保険施設等の「報告基準やルールに関する理解の不足」とともに、「介護事故の自治体への報告基準・方法が不明確」という課題も存在する。
 介護事故によるけがなどで重度化する、自立支援を妨げる等のリスクも存在しており、介護施設から寄せられる事故情報を一元的に把握、分析して、再発防止策を介護保険施設等へフィードバックする仕組みが必要である。

2.本調査研究事業の概要
 本調査研究では、以上の背景および課題認識に基づき、介護老人福祉施設や有料老人ホーム等における安全管理体制や報告の統一的なルール、国や自治体の関与のあり方等についての検討を行うとともに、有料老人ホーム等から行政への報告様式を検討した。

(1)検討委員会の設置・運営
 事業の各種検討を円滑かつ効果的なものとするために、医療介護における安全・衛生管理体制等に関わる有識者や介護施設等の運営管理に関わる有識者、実務者からなる検討委員会を設置し、調査内容や調査結果の整理・活用に関して適宜確認・助言を得る場とした。検討委員会は全5回実施した。

(2)先行研究等の調査・整理
 検討委員会やヒアリングの実施に先立ち、本研究に類似する先行研究や過去の老健事業調査報告書、事故事例、事故防止施策、介護施設での事故における判例について、公開情報を基に調査・整理を行った。

(3)介護老人福祉施設の安全管理体制や報告の統一的ルールの検討
 令和元年度老健事業で作成された介護老人福祉施設から行政への報告様式(案)について、介護老人福祉施設へのヒアリング調査によって報告様式(案)への意見・改善点を伺い、修正を行った上で、報告様式案を作成した。また、介護老人福祉施設における介護事故報告の運用課題等についてもヒアリングし、検討委員会の場において、自治体への報告の統一的ルール策定に向けた本様式の運用方法を検討した。

(4)国や自治体の関与のあり方の検討
 介護事故報告における国や都道府県、市区町村の関与のあり方、体制、役割、集約された事故報告情報の活用方法等の検討を行った。特に報告様式、報告内容等の報告ルールは自治体によって様々であり、現在の運用課題等について、自治体へのヒアリング調査を実施した。

(5)有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅等から行政への報告様式の検討
 (3)で作成された報告様式最案の、介護老人福祉施設以外の施設における準用可能性を把握するため、特定施設入居者生活介護の指定を受けている「特定施設(介護付き有料老人ホーム、サービス付き高齢者向け住宅)」および指定を受けていない「非特定施設(住宅型有料老人ホーム、サービス付き高齢者向け住宅)」へのヒアリングを実施した。

3.本調査研究事業の成果

(1)介護老人福祉施設における介護事故報告書について
 介護老人福祉施設向けの事故報告様式については、本事業で実施したヒアリングや検討委員会での議論を踏まえ、令和元年度老健事業において作成された報告様式案について抜本的な修正は必要ないと結論づけた。各項目については施設、自治体のヒアリングを踏まえ、現場の負担を最小限にしながらも事故報告として必要な項目を記載する観点から調整を行っている。この報告様式が統一の様式として全国の自治体で活用されることを期待する。

(2)介護老人福祉施設における介護事故の報告ルール
 報告ルールについては、住民票の住所と入所している施設の住所が異なる場合に、両方の自治体に事故報告を行っていることが施設および自治体双方の負担になっていることが明らかになった。これについて、県の立場からは同内容の報告が重複して行われる必要はないため、施設の所在する自治体または住民票のある自治体のどちらかへの報告で問題ないという意見が聞かれた。一方で、保険者の立場からは、住民票のある住民に生じた事故については、施設からの報告が二重になったとしても把握する必要があるという異なる意見が聞かれ、現時点では、報告ルートの一本化等の運用の統一に向けてはさらなる検討が必要である。

4.本調査研究事業を踏まえた今後の検討テーマについて

(1)国・自治体のあり方について
 施設、自治体の調査結果によると、双方から国・自治体に期待される役割として「事故事例のデータベース化」「事故事例のケーススタディ化」「データベース、ケーススタディの実地指導への活用」等の意見があった。
 「事故事例のデータベース化」は、本事業で提言する介護老人福祉施設の事故報告様式の統一化が進んだ後に整備されるべきものである。まずは本事業で提言する事故報告様式案が広く全国の介護老人福祉施設等で活用され、データベースを構築しやすい土壌が整備されることが望まれる。
 「事故事例のケーススタディ化」については、他施設の取り組みを参考とするためには、その施設で実施した取り組みについて、実施後の結果までを整理することが望ましく、本事業で提言している事故報告書の内容だけでは情報として不十分である。有用なケースを収集、整理するためには、自治体と事業者が連携し、介護事故報告とは別のアプローチを行うことが必要である。
 「データベース、ケーススタディの実地指導への活用」については、データベースやケーススタディが蓄積されたとしても、自治体内で職員異動の際に、その活用方法について引き継ぐことが難しい場合がある。そのため、実地指導への活用のみならず、介護事故の報告を有効に活用するための方法が示されることも意義があると考えられる。

(2)特定施設・非特定施設への活用について
 本事業では、介護老人福祉施設向けの事故報告様式を提言しているが、今後は、この様式を特定施設・非特定施設に展開することも有益と考えられる。本事業でヒアリングを実施した特定施設および非特定施設では、介護老人福祉施設向けの事故報告様式を用いた自治体への報告について抵抗感は無いという意見が多かった。また、統一化のメリットを感じるという意見もあり、介護老人福祉施設の様式を活用できる可能性がある。
 非特定施設については、介護老人福祉施設向けの報告様式を使用することに関して一定の理解が得られたが、施設によって提供するサービスや人員体制が異なるため、介護老人福祉施設向けの報告様を使用する際には運用上の配慮が必要であることが明らかになった。

(3)見守り機器の導入施設における事故発生状況
 今後、「介護サービスの質の確保と職員負担の軽減」を目的として、ICTの活用が推進されていくことが予想される。見守り機器の導入によって職員数が削減された施設において、事故の発生件数や事故の内容等にも影響が出るということも懸念される。今後は、事故防止の観点から、見守り機器導入の有効性や適切な人員配置の検証を行うことも重要と考えられる。

(4)訪問系、通所サービスにおける事故報告のあり方
 本事業で実施したヒアリングでは、施設側および自治体側の両方から、介護事故報告様式や報告ルールの課題は、介護老人福祉施設をはじめとする高齢者向け住まいだけの問題ではなく、介護事故が発生する可能性がある他の介護サービスにも当てはまるという声が聞かれた。本事業で検討された介護事故報告様式や運用ルールの統一については、訪問系サービスや通所系サービスにおいても検討されることが望まれる。

※詳細につきましては、下記の報告書をご参照ください。
【報告書】

【問い合わせ先】
リサーチ・コンサルティング部門 高齢社会イノベーショングループ
シニアマネジャー 石田 遥太郎
TEL:080-7938-4740  E-mail:ishida.yotaro@jri.co.jp
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