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新型コロナ時代のBtoB営業・マーケティング変革~顧客接点のリアル・デジタルチャネル再設計の解決策検討の進め方~

2021年03月29日 谷口卓也


リアル・デジタルチャネルの検討は点ではなく”面で取り組め”
 新型コロナウイルス感染症の拡大により、多くの企業が従来の対面営業からの変革の必要性を感じているのではないか。現状、取り組みを始めている企業の課題認識や顧客接点のチャネルを再設計する必要性については、本稿と同じコーナーに掲載されている別稿『新型コロナ時代のBtoB営業・マーケティング変革~顧客接点のリアル・デジタルチャネルを再設計し、収益回復・拡大を加速させる~』を参照してほしい。本稿では、営業プロセスの完全自動化モデルではなく、BtoB企業が最も課題認識を持っている、顧客接点のリアル・デジタルチャネルの使い分けに焦点を当てて説明する。
 では、具体的にどのようにして、従来の営業スタイルから脱却し、顧客接点のリアル・デジタルチャネルを再設計していくのか。悩んでいる企業は多く、試行錯誤している。例えば、新型コロナウイルス感染症の拡大により、顧客との接点が減ったので、ウェビナーを開催したり、ウェブサイトコンテンツ(ホワイトペーパーなど)を充実させたり、マーケティングオートメションツール(以下、MAツール)を導入するなどがあげられる。これらの”点の取り組み”は応急処置としては間違いではないが、今後も場当たり的な対応を積み重ねた場合、経営リソース(ヒト・モノ・カネ)を投入したが、思ったほど効果が出ない状態になってしまう。
 顧客接点のリアル・デジタルチャネルを再設計し、投資対効果を創出するためには、以下の図表1のように全体像を捉え、”面の取り組み”を検討していくことが重要である。面とは、①方針づくり、②仕組みづくり、③仕掛けづくりの3つを指す。



取り組みレイヤー別の具体的な検討の進め方

①方針づくり
 方針づくりでは、どの顧客に対して、どの商品・サービスを、どのような方法で(リアルか、デジタルか)売るかを整理する。方針を整理する上で最も重要なのは、営業担当者が介在する価値がある範囲はどこかを見極めることである。各企業が置かれている事業環境で考え方は変わるが、BtoBのセグメント別の販売チャネルの基本的な考え方は以下の図表2のように整理できる。



 顧客が専門知識を必要としない汎用品(文具、事務用品、パソコン周辺機器など)は顧客の規模に関わらず、デジタル接点のみで対応することが最も効率的である。従来は、売る商品・サービスに関わらず、大規模顧客に対して営業担当者を配置することが多かったが、新型コロナウイルス感染症拡大に伴い、営業をする方もされる方も可能な限り、デジタル接点の範囲を拡大しなければならない。
 既存の大規模顧客に対しては、従来の営業担当者が電話、メール、ウェブ会議等の手段で遠隔から対応することから始める。割引などの顧客メリットとセットで顧客を徐々にECサイトに誘導することが有効である。中堅中小規模の顧客はメールマガジンやウェブメディア等でECサイトに顧客を誘導し、顧客自身が注文する。注文後のサポートも会員サイトなどで対応することで全ての営業プロセスをデジタル接点で対応可能となる。
 顧客が専門知識を必要とする専用・特殊品(例えば、機械、部品、素材、医薬品、ITソリューションパッケージなど)は、顧客の規模に応じて対応を分けて考える。中堅中小規模の顧客は、リアル接点とデジタル接点を使い分ける。例えば、業種別のウェブサイトコンテンツ(ホワイトペーパーなど)でリードの獲得までは対応する。その後、コンテンツダウンロード時のアンケートやインサイドセールスから顧客へ架電する。営業ニーズが確認できた場合、優良リードと判断し、営業担当者にトスアップすることで効率的に対応することが可能である。大規模顧客は、要求内容が複雑なことが多く、競合他社の提案内容に競り負けないようにきめ細かく対応する必要があることから、営業担当者を配置して対応すべきである。
 新型コロナウイルス感染症拡大に伴い、地域ごとにリアル接点とデジタル接点を使い分ける考え方もある。緊急事態宣言が発令されている地域ではデジタル接点、一方、新型コロナウイルス感染症の影響が小さい地域では顧客がリアル接点を求めてくるケースも多い。実際に、法人向け保険商品を販売する企業は、原則、新型コロナウイルス感染症の影響が大きい都心部はデジタル接点、影響が小さい地方部はリアル接点で対応している。
 なお、販売代理店を介して営業を行っている場合、また別の観点で方針を検討する必要があるが、ここでは複雑となるので説明は割愛する。

②仕組みづくり
 仕組みづくりでは、前述の「①方針づくり」で整理した考え方を基に、「指標設計、業務設計、情報システム環境の整備」の3つに取り組むことが必要である。
 指標設計は、デジタル接点のKPIの値をどのように定めるかが重要なポイントである。これまで顧客とリアル接点で対応していた場合、デジタル接点で顧客対応する場合の現実的なKPIの値を定めることは根拠がないので難しい。まず、ラフなKPIの値を設定することから始める。例えば、想定している手段(電話、メール、ウェブサイト等)で1日にコンタクト可能な顧客の数を母数として、商談数、受注数、など営業プロセス別にラフなKPIの値を設定する。ラフなKPIを基に、できるだけ多いサンプル数で一定期間(数カ月程度)試行運用し、特需等を除く全体平均値から現実的なKPIの値に見直しを行う。また、数字だけでなく、定性的な要因(リードから外れた理由、失注理由など)もセットで見直すことも必要である。

 業務設計は、まず自社でできる業務範囲と外注する業務範囲を切り分けることが重要である。以下の図表3のように、まず、自社の営業プロセスに合わせて社内と社外のプレーヤーを書き出して全体像を把握する。
 コロナ禍では対面営業ができないことから、インサイドセールスの需要も高まっている。社内で実施する場合は図表3の営業サポート部門が担うことになる。日本総研がインタビューした情報通信業(複数社)では、インサイドセールスは外注と内製に分かれた。過去からアウトバウンド型のコールセンターを自社に持つ企業は、顧客とのリモート対応のノウハウがあり、要員も豊富なので比較的内製化しやすい。一方、インバウンド型のコールセンターを持つ企業やコールセンターがない企業は、インサイドセールスを外部企業にアウトソーシングしているケースが多かった。業務の専門性とリソースを考慮して、社内と社外の対応範囲を上手く連携できるよう、検討を進めていくことが重要である。



 情報システム環境を整備する上で、重要なポイントは顧客接点データの一元管理である。営業プロセスごとに顧客接点のデータを個別に蓄積しているものの、データ連携しておらず、後ろの工程で活用できていないケースがよくある。以下、図表4のように顧客情報をキーに顧客接点データを紐付けし、適時適切にデータ活用できるプラットフォームを整備する必要がある。特にデータの活用目的を明確にしておく必要がある。例えば、デジタル広告を提供する企業では、顧客の離脱防止を目的に、顧客管理のプラットフォーム上で広告の課金状況を管理している。基準値を下回るとリアルタイムでアラートが出され、離脱の可能性がある顧客に対してリアル接点で営業担当者が対応する仕組みとしている。



 BtoBの営業プロセスでは検討期間が⻑い分、放置せずに顧客とつながっておく必要がある。⾃社の業種や製品・サービスの場合、どのような手段で顧客にコンタクトし、ストーリーを作っていくのかを整理すると成約率の⾼い”勝ちルート”が⾒えてくる。指標設計、業務設計、情報システム環境の整備をセットにして仕組みを考えなければ、永遠に単発の活動を続けることになる。

③仕掛けづくり
 仕掛けづくりでは、顧客接点のリアル・デジタルチャネル再設計の取り組みを浸透・加速させるために、インセンティブの設計(社内/社外)と成功事例の展開を行う。
 社内に対するインセンティブは組織の評価、個人の評価に反映することが有効である。具体的にはKGIやKPIの達成度合いに応じて、定量評価に反映することなどが考えられる。企業文化によっては、定量評価への反映はハードルが高い場合もある。その場合、まず、定性評価に反映するなどの方法で、現場の強い反対が出ないように緩やかに始めてみることが有効である。
 社外(販売代理店)に対するインセンティブは報酬に反映することが有効である。販売代理店にデジタル接点での顧客対応を依頼する場合、販売代理店がメリットを感じ、動きやすくする支援が必要である。例えば、販売代理店主催のウェビナー(自社は共催の位置付け)を開催することで、販売代理店は普段アプローチできない顧客向けに効率的な営業活動ができるメリットを享受できる。また、取り組みを加速させたい場合は、期間限定のキャンペーンを設け、通常のインセンティブに上乗せを行うなどが、販売代理店に対してはメリットが分かりやすく有効である。
 成功事例の展開は、範囲を絞り、その範囲内で徹底的に横展開することが有効である。例えば、1つの顧客業種で小さな成功事例をつくり、同業種内で徹底的に横展開することなどが考えられる。販売代理店向けに成功事例を展開する場合、売上トップ層の販売代理店に協力してもらうと良い。売上トップ層の販売代理店は、他の販売代理店への影響力も大きく、まねされやすいので、成功事例を横展開しやすい。

最後に
 顧客接点のリアル・デジタルチャネルの再設計は、「①方針づくり、②仕組みづくり、③仕掛けづくり」という、”面で取り組むこと”が重要であると述べた。将来像を描くことができたとしても、コロナ禍で社内外を巻き込みながら一度に全ての内容を実現することは難しい。まずは、取り組みの軸となる「①方針づくり」に着手して欲しい。その方針の一部を選定して、②仕組みづくり、③仕掛けづくりをセットでスモールスタートすることが必要と考える。その際、スモールスタートの範囲は将来像と整合性をとることが必須である。
 新型コロナウイルス感染症拡大によって、リアル接点の営業が主流であったBtoBのビジネス環境が大きく変化していることを好機と捉え、短期・中期・長期とステップを踏んで取り組みを進めていくことが重要である。

※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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