アジア・マンスリー 2021年4月号
中国半導体産業はサプライチェーン上の脅威か
2021年03月26日 三浦有史
米バイデン政権は、半導体など4品目のサプライチェーン安定化を目指す政策を打ち出したが、レアアースや医薬品の脱「中国依存」は至難の業である。半導体についてはどうであろうか。
■米大統領令で指摘された4品目の中国依存度
米バイデン大統領は、2月末、①半導体、②電気自動車向け高性能バッテリー、③医薬品、④レアアース(希土類)を含む重要鉱物の4品目のサプライチェーンを100日以内に見直し、防衛や情報技術など6分野についても1年以内に見直す大統領令に署名した。サプライチェーンを安定的なものにするため、国産化や同盟国との関係強化による調達先多様化を進めようというのがその狙いである。
サプライチェーンの安定化において課題となるのが中国の存在である。4品目それぞれの輸入に占める中国の割合、つまり中国依存度をみると、半導体は2020年で依存度が5.2%に過ぎず、しかも、低下傾向にあるのに対し、その他の品目は中国への依存度が非常に高い水準にあるか、あるいは上昇傾向にあることがわかる(下図)。なお、医薬品は広範囲に及ぶため、ここでは新型コロナ感染拡大時に欧州でも中国依存が問題視された抗生物質について見た。
2019年の世界輸出に占める中国の割合は、半導体が16.7%、車載バッテリーが37.3%、抗生物質が34.1%、レアアースが47.3%であることから、中国に依存しない安定的なサプラチェーンの構築が最も難しいのはレアアースである。中国は2020年時点で世界のレアアースの埋蔵量の4割、生産量の6割を占め、依存度を下げるのは至難の業である。同様のことはレアメタルのリチウムを主原料とする車載バッテリーにも当てはまる。
医薬品は医薬品成分の中国依存度の見直しが焦点になる。米国に限らず先進国の多くは薬剤の有効成分の多くを中国からの輸入に依存しており、新型コロナ感染拡大時に調達の安定性が不安視された。インドは中国を代替する生産・輸出拠点になることを目指すとしているものの、インド自身の中国依存度が高く、脱「中国依存」は簡単には進みそうにない。
■中国の半導体産業は世界一になるのか
半導体はやや複雑である。バイデン大統領が指摘した半導体は、不足が世界的に深刻化している車載半導体を指すと思われるが、世界の車載半導体の生産に占める中国の割合は低く、脱「中国依存」は争点にならない。ところが、半導体全体でみると、様相は異なる。ボストン・コンサルティング・グループは、2020年に世界の15%を占める中国の半導体生産能力は2030年には24%に達し、台湾、韓国を上回り、トップに躍り出ると予測する。半導体は産業の競争力だけでなく、軍事面の優劣を左右しかねないため、必然的に脱「中国依存」が重要な課題として浮上する。
しかし、中国の半導体生産能力が右肩上がりで上昇するという予想は、米国の半導体輸入における中国の地位が低いという前頁の図表と矛盾する。その理由としては、半導体生産における中国の躍進が技術力を向上させた自国資本の地場企業によるものか、中国に進出した外資企業によるものかが峻別されていないことがある。前者の場合は中国に依存しないサプライチェーンの構築が喫緊の課題として浮上するが、後者の場合は2030年に世界一になるという予測はある程度割り引いたうえでサプライチェーンのあり方を考える必要がある。
中国(香港を含む)の半導体貿易をみると、輸入が輸出を大幅に上回る(右下図)。これは輸入した半導体がスマートフォンなど別の貿易品目に組み込まれて輸出されているためと考えられ、中国地場企業の半導体生産能力が決して高くないことを示唆する。実際、中国は産業政策「中国製造2025」を掲げ、半導体の国産化率を2025年に7割に引き上げるとしているものの、半導体生産に占める地場企業の割合は2020年時点でわずか5.9%にとどまる。
このことは中国国内でも問題視されている。中国では中央および地方政府が主導するかたちで産業振興基金が設立され、多額の資金が投入されてきたが、半導体については工場建設途中で計画が行き詰まるケースが目立つ。国家発展改革委員会は、2020年10月、経験、技術、才能のない「三無」企業が参入し、資金を浪費していると警鐘を鳴らした。米国の制裁により最先端の半導体を生産するのに欠かせない製造装置が輸入できないことも大きな足かせとなっている。
その一方、「世界の工場」である中国をサプライチェーンから完全に排除することは難しく、コストがかさむことも事実である。半導体産業のサプライチェーンを見直す動きは欧州でもある。これらの国・地域では、中国がサプライチェーン上で実態的にどのような役割を果たしているのかについて慎重に分析したうえで、望ましい半導体サプライチェーンのあり方を考えていく必要がありそうだ。