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JRIレビュー Vol.6,No.90

子どものウェルビーイング実現に向けた情報・コミュニケーションの課題ーデジタル化の前に考えるべきこと(公開2021年3月)

2021年05月28日 池本美香


わが国は1994年に国連の「子どもの権利条約」を批准しているが、子どもの貧困、虐待、自殺、いじめ、不登校などの状況はむしろ悪化している。その背景には、情報・コミュニケーションの不足が指摘できる。すなわち、子どもと親が必要な情報を得られず適切な行動がとれない、あるいは支援が届かず問題が深刻化している。さらには、政府が子どもや親の状況を把握して効果的な対応策を現場に伝えるといったことが十分に行われていない。
 現在、菅政権では、デジタル庁創設などICTの積極的活用が打ち出され、子ども・子育て分野においても、自治体の業務効率化や保育者、教員、親の事務負担軽減に向けた活用が進められつつあるが、今あるアナログ情報やコミュニケーションをデジタルに置き換えるだけでは、こうした状況の解消は覚束ない。そこで本稿では、子ども・子育て支援における情報・コミュニケーションの課題を整理し、改善策を提言する。

子どもと親の情報・コミュニケーション不足の背景には、親子ともリアルな人間関係が希薄になっていること、子どものウェルビーイング実現のために必要とされる情報が増えていること、および、インターネット上に情報があふれていたとしてもアクセスが困難であったり多様化するニーズにマッチしていなかったりすることなどが指摘できる。例えば、かつてであれば祖父母、きょうだい、教師、地域社会などが重要な情報源であり、かつ、子どもや親の声の聴き手すなわち情報の受信者でもあった。だが今日、食品のアレルギー表示の不備やネット犯罪など子どもにとってのリスクはあらゆるところに潜んでおり、対処すべきことがらは膨大である。ネット上の情報は、一方的な提供に陥りやすく、真に必要とする人に届いているのかフォローアップも容易ではない。
 情報・コミュニケーション不足の改善により、子どものウェルビーイングの実現がとくに期待できる分野としては、①安全、②親も含めた健康、③特別なニーズのある子どもの支援などが挙げられる。例えば、①や②については、教師や保育者から子どもが受ける性犯罪被害、子どもの自殺、10代の妊娠や中絶、親の産後うつによる自殺や児童虐待などへの対策は喫緊の課題である。③の特別なニーズのある子どもとは、貧困、障害、アレルギー、不登校、社会的養護、性的マイノリティ、外国人、被災者などである。

政府の課題としては、①子どもや親の状況、および子ども・子育て支援にかかわる現場の状況についての情報収集が不足していること、②政府から子ども、親、子ども・子育て支援の現場への情報伝達が効果的でないことなどが指摘できる。①については、国連の子どもの権利委員会からも勧告を受けている。②については、子どもの事故予防、若者のメンタルヘルスなどに関する情報が国や地方自治体のホームページに掲載されてはいるものの、見つけにくく、当事者に伝わり切れていない。地域による子ども・子育て支援の格差など、政府が持つ情報が公開されていないこと、および、子ども・親の孤立や、子ども・子育て支援の現場が子どもや親に必要な情報を提供する余裕がないといった根本的な問題が検討されていないことも課題である。

子ども・子育て支援における情報・コミュニケーション不足の改善に向けて、取り組むべきポイントは以下の4点である。

①わが国の子ども・子育て政策の根底には、子育ては全面的に親に責任があり、問題が生じた場合に限り事後的に政府が支援するという考え方がなお見られる。それは、保育所が、母親がやむを得ず働く場合の子どもの預かり場所であるという位置付けに顕著である。こうした考え方を改め、予防的すなわち問題の発生や深刻化を未然に防ぐ視点、そのための子ども・親への情報提供の重要性を認識すべきである。
②特別なニーズのある子どもと親に着目した、信頼性の高い情報提供の充実である。子ども・子育て政策に色濃く見られる発想すなわち「平均的な、多数派の」子どもと親を想定するという発想から抜け出さなければならない。その際、政府のみの手でその実現を図るのではなく、すでに多くの実績を蓄積しているNPOなど民間組織との連携が有効である。
③オンラインおよびリアル双方における情報伝達の一段の工夫と改善である。情報は受け手にとって見つけやすく、わかりやすくなければならない。次のような海外における取り組みを積極的に取り入れるべきである。オンラインにおいては、政府自身による平易な言葉の使用、情報提供の一元化、アプリやオンラインゲームの活用など、リアルな情報提供やコミュニケーションの場面においては、子どもや親に継続的に寄り添い、信頼関係を築きながら、相談を幅広く受け止める伴走型支援や、同じような立場にある人同士の支え合い(ピアサポート)を促す環境づくりなど、である。
④情報発信者としての子どもの権利尊重とそのための制度づくりである。子どもは自らの意思を発信する権利を当然持ち、そこから得られる情報こそ子ども・子育て政策の基本とならなければならない。もっとも、子どもには選挙権もないなど発信ルートは限られている。そこで、その発信を促し、手助けするための独立機関設置が不可欠である。そうした機関は、海外では「子どもオンブズマン」あるいは「子どもコミッショナー」などの呼称で普及している。

政府の進める政策も、こうしたポイントを踏まえることによってより有効なものになると期待される。
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