コンサルティングサービス
経営コラム
経済・政策レポート
会社情報

経営コラム

日本総研ニュースレター

第6次エネルギー基本計画策定に向けて ~求められる「熱」と「需要家」の視点~

2020年12月01日 段野孝一郎


「再エネ型経済社会」再エネ拡大の政策は強化の方向
 2020年10月より、第6次エネルギー基本計画策定に向けた議論が始まった。現在、総合資源エネルギー調査会の基本政策分科会にて検討が進められているところである。
 エネルギー基本計画とは、エネルギー政策基本法(2002年公布・施行)に基づき、エネルギー需給に関して総合的に講ずべき施策等について、関係行政機関の長や総合資源エネルギー調査会の意見を聴いて、経済産業大臣が案を策定し、閣議決定するものである。エネルギー政策基本法では、「少なくとも三年ごとに、エネルギー基本計画に検討を加え、必要があると認めるときには、これを変更しなければならない」とされており、2003年策定の第1次エネルギー基本計画から数えて、次期計画は第6次に当たる。
 現行の第5次エネルギー基本計画では、長期エネルギー需給見通しに示された非化石電源比率44%を目指すため、「再生可能エネルギーの主力電源化」という方向性が打ち出されている。2020年7月からは「再エネ型経済社会」という構想が梶山経済産業大臣から公表されており、今後も再エネ導入を拡大する政策は強化されていくと考えられる。

「熱需要の脱炭素化」の主役は水素、バイオ燃料にも期待
 一方、この間に国際的な脱炭素の機運は一層高まってきた。国際公約である「2050年度までの温室効果ガス排出削減80%」を超える「カーボンニュートラル」「カーボンネガティブ」などのコンセプトをはじめ、脱炭素化の議論を先導する欧州では様々な政策が打ち出されている。欧州各国の議論を見ると、電力の脱炭素化自体は原子力・再エネ・CCS/CCUS(CarbonCaptureUtilizationandStorage)によって技術的・政策的に可能であり、電力以外のエネルギーが必要となる分野(蒸気等を使う産業分野、液体燃料を使う運輸分野等)をいかに脱炭素化するか、という点に検討の重点が移行している。
 「熱需要の脱炭素化」で大きく期待されるのが水素である。水素は様々なエネルギー源から生み出される二次エネルギーであり、再エネ水電解や褐炭のガス化改質による水素製造(排出されるCO2はCCSにより地中に貯留)といった方法で脱炭素化が可能である。こうして生み出された水素を使うことで、電力以外のエネルギーを使用する産業・運輸分野を脱炭素化できる。さらに、既存のガス燃料に混ぜて混焼させれば、発電分野の温室効果ガス削減も可能となる。欧州が水素に注力し始めたことで、まだまだ将来的な存在と目されてきた水素もにわかに脚光を浴び始めてきている。
 熱需要のうち、「液体燃料の脱炭素化」では、様々なバイオ燃料が期待される。既に国内でも微細藻類由来でバイオ燃料を生み出す技術、廃棄物焼却時の排出ガス(Syngas)からバイオ燃料を合成する技術などの開発が進められている。バイオ燃料の活用は、化石燃料からの転換という点で脱炭素の方向性に整合的であり、多くのバイオ燃料製造/合成技術が大気中や排出ガス中のCO2を有効活用する方式を採用している点でも、カーボンニュートラルという特徴がある。こうしたことから、今後の熱需要分野では、バイオ燃料を積極的に活用する方向性が望ましいと考えられる。

需要家をインセンティブで育てるべき
 もう1つの重要な要素が、需要家のインセンティブである。エネルギー基本計画では、その性質上、供給側の議論に重点が置かれてきたが、水素等の新たなエネルギー源を導入する場合、供給側だけでなく、需要家側の検討も不可欠となる。 具体的には、需要家が水素を活用するインセンティブや規制措置の検討(例:化石燃料へのCO2フリー水素の混合義務化等)も合わせて検討しなければ、供給側(水素供給体制)が整っても、需要側(需要家がCO2フリー水素を社会的に受容する環境)が整わない可能性もある。需要家側が様々なエネルギーを最適に利用するうえで、適切なインセンティブや規制措置を与えることが重要となる。
 エネルギー基本計画は概ね3~4年に1度見直される短期的な計画であるため、第6次計画自体は小幅な見直しに留まる可能性もある。一方、世界的な情勢は、まさに政策のパラダイムシフトの最中である。2050年までの世界的な脱炭素の方向性を見定めたうえで、電力以外のエネルギーの脱炭素化政策として、特に「熱」と「需要家」の視点を重視して検討を進めるべきではないか。

※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
経営コラム
経営コラム一覧
オピニオン
日本総研ニュースレター
先端技術リサーチ
カテゴリー別

業務別

産業別


YouTube

レポートに関する
お問い合わせ