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JRIレビュー Vol.4,No.88

量的緩和に踏み切った豪中銀-コロナ禍での先進国中央銀行の金融政策運営の変容

2021年02月24日 河村小百合


2008年秋のリーマン・ショック以降、米英欧日の主要中央銀行は、政策金利のさらなる引き下げ余地の枯渇(“ゼロ金利制約”)を背景に、いわゆる「量的緩和」や「大規模な資産買い入れ」といった「バランス・シート(以下BS)政策」に相次いで踏み切った。欧州中央銀行や日銀ではマイナス金利政策をも併用している。もっともそうした金融政策運営は、コロナ危機前までは日米欧の主要中銀が中心で、他の先進国や新興国の中銀まで幅広く採用しているものでは必ずしもなかった。

しかしながら、今般のコロナ危機は、日米欧以外の先進各国の中央銀行の金融政策運営にも変容を迫りつつある。本稿ではその例としてオーストラリア準備銀行(RBA: Reserve Bank of Australia)をとりあげ、RBAが先行した主要中銀による非伝統的手段による金融政策運営をどのように評価したうえで、今次コロナ危機に際し、いかなる金融政策運営を展開しているのかを検討する。

豪経済にも世界的な低金利、低インフレ傾向の影響が及ぶなか、RBAにおいてもコロナ危機到来前の時点で非伝統的な手段に関する先行事例の評価が行われていた。具体的には、危機時には事態鎮静化の効果が認められる一方で、幾つかの副作用が指摘され、RBAとしては、インフレーション・ターゲットの達成が中期的に困難になった場合、非連続的な形で非伝統的な手段による金融政策運営に移行することが想定されていた。

コロナ危機の初期段階の2020年3月、RBAはまず、政策金利であるキャッシュ・レートのターゲットを0.25%まで引き下げるとともに、3年物豪国債のイールドに初めて0.25%というターゲットを設定した。その達成のために豪国債等の買い入れオペレーションが実施されたが、この時点ではオペレーションの「量」が問題とされるものではなかった。3年物金利へのターゲットの設定には、短期の政策金利を低水準に据え置くことを長期化させることをあらかじめ約束する、フォワード・ガイダンスを強化する意味合いもあった。

RBAは2020年11月、目先の経済見通しではなく、豪経済のとりわけ雇用情勢の悪化が長期化しかねないとの分析に基づき、追加緩和に踏み切った。その主な内容は、短期のキャッシュ・レートおよび3年物金利のターゲットをともに0.1%にまで引き下げるとともに、向こう半年間、1,000億豪ドル規模の国債等の買い入れを実施するというものである。これはRBAがついに“ゼロ金利制約”に直面したことを意味し、RBA自身も今回の追加緩和をもって、同行が量的緩和、すなわちBS政策に踏み出したことを認めている。イールド・カーブの短期の部分には「価格(金利)」、長期の部分には「量」のターゲットを設定するという金融政策運営は他の中銀にはみられない、ユニークなものである。なお、マイナス金利政策についてRBAは引き続き懐疑的な見方を崩しておらず、採用されていない。

RBAは金融政策運営の今回の転換に際しても従前と同様、その判断の根拠や効果の波及の考え方等を細部に至るまで理路整然と、かつ明快に説明している。今後の①豪経済が、とりわけRBAが注視する雇用情勢の推移いかん、②それを受けてのBSの拡大に対するRBAの対応と今後の金融政策運営、さらには、③BS政策を展開する中央銀行がこのように先進国全体に拡大し、グローバルにみた際の流動性の供給が一段と増加するなかで、資産市場をはじめとする国際金融市場にいかなる影響が及ぶことになるのかを注視していく必要があるといえよう。
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