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RIM 環太平洋ビジネス情報 Vol.21,No.80

拡張する中国の対外融資-債務危機で揺らぐ国際社会における地位

2021年02月15日 三浦有史


新型コロナウイルスの感染拡大に伴う開発途上国の債務危機が発生したことを受け、中国は世界銀行を通じて低所得国に対する融資実績を開示した。2019年の融資残高は1,085億ドルと、世界銀行の1,157億ドルと肩を並べる水準にある。

中国は、意図して開発途上国を「債務の罠」に陥れようとしているわけではないものの、重点国に対し過剰な融資を行う傾向がある。債務残高に占める中国の割合が高い「中国依存国」のなかには、債務不履行に陥るリスクが「高い」ないし「窮迫」と評価される国が多い。

中国政府は開発途上国に対する支援を「南南協力」と位置付ける。「南南協力」は互恵の原則に基づいて実施されており、融資は前提条件を設けず、高金利でなされる。中国の開発途上国向け融資の残高は2017年で3,930億ドルに達し、中所得国および非アフリカ地域にも積極的にアプローチしている。「開発途上国の盟主」としての中国の地位はOOF(ODA以外のその他政府資金)によって支えられている。

世界銀行は、開発途上国の抱える債務は“過去50年で最悪” と評するものの、低所得国の債務危機に対する懸念は次第に緩和されると見込まれる。危機の震源地になりうるという点では、低所得国よりもトルコやブラジルといった中所得国の方が危険といえる。

最大の債権国となった中国は、債務の持続可能性に与える影響が大きいにもかかわらず、融資の不明瞭さと、返済猶予交渉における消極姿勢が目立ち、中国以外の債権者の疑心暗鬼を誘発し、債務危機回避に向けた国際協調を損なう存在になっている。

新型コロナウイルスの感染拡大に伴う債務危機は、①互恵の原則は債務削減と相いれない、②中国は債権者として異質であり、他の債権者との協調が難しい、③中国は債務の持続可能性について考える必要がない、といった「南南協力」が内包する問題点を露呈することとなった。

中国は、深刻化するアメリカとの対立、潜在成長率の低下、そして、今回の債務危機において開発途上国を満足させる対応が出来ていないこと等から、開発途上における中国のプレゼンスは今後低下する可能性がある。

対外融資の停滞により、一帯一路はコロナ前の勢いを失う公算大である。今後、何を手段に一帯一路を推進するのか、さらには、アメリカに伍する大国としての責任とは何か、習近平政権の外交政策は政権発足後初といえる分岐点に差し掛かっている。
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