コンサルティングサービス
経営コラム
経済・政策レポート
会社情報

経済・政策レポート

アジア・マンスリー 2021年2月号

正念場を迎える中国の拡張的外交政策

2021年01月28日 三浦有史


コロナ禍による対外債務危機を境に、中国からの融資に慎重になる開発途上国が増え、中国国内でも「融資疲れ」の兆候がみえる。習近平政権の拡張的外交政策は正念場を迎えている。

中国の融資残高は世界銀行に匹敵
中国は世界銀行を通じて低所得国に対する融資の実態を初めて明らかにした。2019年末の融資残高は1,085億ドルと、世界銀行と肩を並べる水準にまで達していることが判明した。こうしたなか、2020年11月にザンビアが債務不履行に陥るなど、コロナ禍によって、中国から多額の融資を受けている低所得国の多くが債務危機に直面している。

債権国として台頭した中国が、低所得国の債務危機に対しどのように振る舞うか。この問題は、債務危機を回避出来るか否かに決定的な影響を与える。G20財務大臣・中央銀行総裁会議は、国際通貨基金(IMF)と世界銀行の要請を受け、2020年10月、低所得国の二国間政府債務の返済を2021年6月まで猶予すること、そして11月には、債務削減と償還期間の延長をする場合の枠組みについて合意した。

中国はG20のメンバーであることから、債務危機回避に前向きであるようにみえる。しかし、中国政府は債務返済猶予には応じるものの削減には応じない、あるいは、政府100%出資である国家開発銀行は民間債権者であり返済猶予の対象外である、と主張するなど、危機回避に向けた国際協調の足並みを乱す存在になっている。国家開発銀行は、2020年9月末までに一部の低所得国と7.5億ドルの債務救済協定を締結したとするものの、上述した中国の低所得国向け融資残高を考えると、その規模はあまりにも小さいといえる。

ガーナのオフォリ・アタ財務相は、2020年10月、英フィナンシャルタイムスへの寄稿において、IMFや世界銀行がアフリカ大陸全体を対象に融資枠を広げたのに対し、中国は二国間交渉に執着し、優先的に債務の返済を受けようとしているのではないかという他の債権者の不安を増長した、と批判した。中国は債務危機の回避に前向きというわけではなく、開発途上国を味方に引き入れることが出来なかったため、G20の債務返済猶予と削減の議論に同調せざるを得なかったというのが実情とみられる。

重点国へ積極融資
中国の国別融資残高をみると、2019年の残高が100億ドルを超えるのはパキスタンとアンゴラの2カ国である。前者は216億ドル、後者は157億ドルで、それぞれ全体の19.9%と14.5%を占める。以下、エチオピア(84億ドル、7.7%)、ケニア(75億ドル、6.9%)、ラオス(53億ドル、4.8%)と続く。パキスタンとアンゴラが重視されるのは、両国が一帯一路および資源確保において欠かせない国だからである。

パキスタンではインド洋から陸路による中国への輸送を可能にする「中国パキスタン経済回廊(CPEC)」の建設が進められている。CPECは一帯一路を象徴する最重要プロジェクトの一つと位置付けられる。アンゴラはナイジェリアに次ぐアフリカ第2の産油国であり、中国にとってサウジアラビア、ロシア、イラクに次ぐ原油輸入先となっている。

一方、中国の融資残高を各国のGDPとの対比でみると、最も高いのはジブチでGDP比35.7%に達し、以下、コンゴ共和国(29.9%)、ラオス(27.6%)、キルギス(21.0%)、モルディブ(20.2%)と続く。ジプチとキルギスは一帯一路の拠点として、ラオスは南シナ海における領有権問題で中国に対するASEANの団結を阻む存在として、コンゴ共和国は銅やコバルトなどの資源供給国として、モルディブはインド洋への進出の足掛かりとして、それぞれ欠くことのできない国である。

拡張的外交政策の行き詰まり
ボストン大学が2020年12月に発表した最新の研究によれば、中国の対外融資残高は2019年末時点で4,670億ドルに達し、先述の低所得国向け融資は全体の2割を占めるに過ぎない。中国は高速鉄道、原子力発電、港湾などの大規模インフラ整備を可能にする融資、あるいは、原油などの資源確保を目的とした融資を通じて、低所得国以外の開発途上国にも積極的にアプローチし、一帯一路を推進するとともに、米国に対抗しうる勢力圏の構築を進めてきた。

しかし、こうした中国の拡張的外交政策は行き詰まると見込まれる。理由の一つは、開発途上国が高金利を課し、債務削減にも消極的な中国から融資を受けるのに慎重になり始めたことがある。パキスタンでは、中国の融資を財源に鉄道整備が進められているが、融資金利をめぐる両国の折り合いがつかず、2021年1月着工予定の工事が延期される可能性がでてきた。アンゴラは、中国ではなくIMFからの融資で経済安定化を目指すこととなった。

もう一つは、中国国内に「融資疲れ」の兆候がみえることである。ボストン大学によれば、2019年の新規融資額は39億ドルとピーク時(2017年)の750億ドルの20分の1に減少した。タカ派の論客として知られる中国国防大学戦略研究所の戴旭教授は、「中国は惜しむことなく世界に援助を供与してきたが、米中対立が激化するなかで中国に同情や支持を示す国は一つもない」としたように、開発途上国支援の効果を疑問視する声があがっている。習近平国家主席が11月のアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議で、これまで無視していた環太平洋経済連携協定(TPP11)への参加を「積極的に考える」と表明したのも、求心力の源泉を融資に求めることが難しくなってきたという環境の変化を察知したからと考えるのが妥当であると思われる。
経済・政策レポート
経済・政策レポート一覧

テーマ別

経済分析・政策提言

景気・相場展望

論文

スペシャルコラム

調査部Twitter

経済・政策情報
メールマガジン

レポートに関する
お問い合わせ