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アジア・マンスリー 2021年1月号

米中対立を受けて供給網再編は継続へ

2020年12月25日 野木森稔


米国における対中輸入依存度が高まったが、コロナ特需により一時的に押し上げられているに過ぎない。対中制裁関税の継続は、在中国企業に対しその他アジアへの生産拠点の移転を促すことになろう。

中国の米国向け輸出の巻き返しは一時的
2020年10月の米国の輸入は前年同月比横ばいとなったが、そのうち中国からの輸入は同+11.7%と大幅に増加し、足元にかけて中国依存度が高まっている。しかし、①コロナ特需は徐々にはく落、②米国による対中制裁関税は継続、といった点を考慮すれば、こうした動きは一時的なものにとどまる見込みである。

コロナ禍ではIT関連と医療関連で急激な需要増加がみられたが、これらを除けば米国の中国からの輸入額は低調なままである。実際、米国の輸入における中国シェアは関税制裁実施前の2018年の水準(約20%)近くまで戻しているが、感染対策に利用されるマスクとテレワークの増加に伴って需要が高まったノートパソコンを除くと、同シェアは16%程度で推移し、低水準が続いている(右上図)。中国からの輸入が急増した背景には、感染拡大初期に供給問題が生じた製品において、中国が短期間で世界中に供給できる体制を整えたことがある。マスク(米国での中国輸入シェア2019年:72%→2020年1~10月期平均:85%)だけでなく、フェルトや不織の衣類(54%→77%)や温度計(36%→71%)といった医療関係品でもシェアの急拡大が確認できる。また、米国ではもともと中国産がほぼ独占している財もあり、その一つであるノートパソコンの需要増は中国での生産を勢いづかせた。これらは一種の特需であり、持続的な動きとはみられないため、今後、徐々にはく落していくことになろう。

加えて、米国による制裁関税も中国からの輸入の重しとなる見込みである。12月2日、バイデン次期米大統領はこれまでに制裁として導入された関税は直ちに撤廃しない、という考えを示した。2017年から4年続いたトランプ政権下では中国との対立が激化し、2018年以降、米国は制裁関税を4段階で発表した。第1弾は年間約340億ドルの財を対象として25%(2018年7月~)、第2弾は約160億ドルに25%(2018年8月~)、第3弾は約2,000億ドルに10%(2018年9月から実施され、2019年5月から25%に引き上げ)、第4弾の一部(A)は約1,200億ドルに15%(2019年9月から実施され、2020年2月から7.5%に)が追加関税として課せられた。なお、マスクは第4弾(A)に含まれるが、関税除外品目に指定されており、ノートパソコンは2020年1月の米中合意により関税発動が見送られた第4弾(B)の約1,600億ドルに含まれる。

関税リスト別の中国からの輸入をみると、追加関税25%対象の財(第1弾~第3弾)の輸入は大きく低迷している。米国での政権交代後も米中対立が緩和する可能性は低く、特に貿易面での不均衡是正を求める声は党派を超えて根強い。新大統領が制裁関税の緩和・撤廃を決断するのは難しく、当面、米国の中国輸入に対する下押しは続くことになろう。

生産移転先としてアジアは依然有力候補
中国からの輸出に対する米国による制裁関税継続などを背景に、多くの企業は中国にある生産拠点を他の地域に移転するといったサプライチェーンの見直しの動きを続ける見込みである。実際、米国の輸入におけるシェアの動きをみると、2018年から2019年だけでなく、2020年にかけてもベトナムが大きく拡大しているなど、生産移転の持続が示唆される。

米国の中国からの輸入について減少寄与が大きい品目をみると、代わりにシェアを高めている国・地域の多くはアジアである(右下表)。各国企業にとって中国からの生産移転先にアジアが有力候補となっていることが示されていよう。なかでもベトナムは家具や玩具に加え、エレクトロニクス製品など幅広い品目でシェアを拡大させている。一方、CPUなどの処理装置や、ハードディスクに代わって急速に普及しているSSD(半導体メモリを利用した記憶媒体)といった高技術の品目は台湾や韓国が競争力の高さをみせているが、ASEANではマレーシアのシェア拡大の動きもみられる。マレーシアはペナン地区で半導体企業の集積に成功しており、ハイテク分野でのプレゼンスを高めていく可能性がある。

2018年以降の対中関税引き上げや2020年の新型コロナ感染拡大初期の中国での物流停止などによって、多くの国で脱・中国依存の機運が高まった。足元にかけて米国における中国からの輸入が大きく増加し、米国経済の中国依存度が高まっているものの、その動きは一時的であり、米国を中心に脱・中国依存の流れは変わらない。これまでの動きを見る限り、アジア各国・地域、特にベトナムには引き続き恩恵がもたらされることになろう。一方、制裁関税だけでなく、ファーウェイへの禁輸などハイテク分野での対立が一段と激化する懸念もくすぶっており、ハイテク関連のサプライチェーン再編が加速することになれば、台湾、韓国の他にマレーシアも同分野で優位性を発揮する可能性があろう。
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