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テレワーク時代の組織マネジメントの在り方を検討する

2020年11月27日 林浩二


1.はじめに
 新型コロナウイルス感染症の流行が収束する気配がみられない。
 緊急事態宣言が解除されたのち、テレワークから通常の出社勤務に戻したものの、その後の感染拡大を受けて再びテレワークに軸足を戻す企業も現れたようである。この間の経験を通じて、今やオンライン会議はもちろん、これまではレア・ケースであったオンライン形式の営業往訪等も決して珍しいことではなくなった。
 こうした時代におけるホワイトカラーの人材マネジメントのエッセンスは、「職務内容の明確化、並びに、上司・部下の丁寧なコミュニケーションを通じた進捗管理とフィードバックの拡充」と要約することができるであろう(詳細については、拙稿「ポスト・コロナ時代のホワイトカラーのパフォーマンス・マネジメントを展望する」および「人材マネジメントの視点からテレワークと「ジョブ型」の関係を考察する」を参照のこと)。
 一方、テレワーク時代にあって組織の持続的発展を実現するためには、社員個々人にフォーカスした「人材マネジメント」の視点だけでなく、組織全体をターゲットとした「組織マネジメント」の観点からの検討も必要である。そこで、本稿では、テレワーク時代における組織マネジメントの在り方について考えてみたい。

2.テレワーク時代の組織マネジメント
 テレワーク時代の組織マネジメントの本質は、「Face-to-Faceのコミュニケーションを前提としない中で、いかに従業員を動機づけ、組織のパフォーマンスを高めるか」ということに尽きる(図表1)。



 プレ・コロナ時代には、対面での濃密なコミュニケーションを通じて組織を活性化させ、組織全体のパフォーマンスを高めるマネジメントが求められた。そのためには、狭義の「仕事」だけでなく、職場の懇親会、飲み会(飲みニケーション)などのソーシャル・イベント等を効果的に活用することも重要になる。職場内外におけるきめ細かなコミュニケーションを通じてメンバーを動機づけ、組織へのエンゲージメントを高めることができるマネジャーが高く評価されてきたのである。
 これに対し、コロナ禍の現在では、社員がオフィスに揃う機会は少なくなり、懇親会、飲み会等のソーシャル・イベントについては、開催そのものが困難である。オンライン・コミュニケーションを充実させることで、職務上のパフォーマンス管理を行うことは可能であるが、メンバーのエモーショナルな(心情的な)部分に働きかけるには、やはり対面の方が優れている。特に、日本の場合、社員の個人プレーではなく組織一丸となったチームプレーを強みとする企業が少なくないため、「組織の一体感、団結力」が弱体化することは、日本の企業組織にとって大きな脅威となり得る。

3.「閉じた組織」と「開かれた組織」
 しかし、「一体感・団結力に優れた組織」とは、裏返して言えば、閉鎖的で同質なメンバーから構成される組織である。ポスト・コロナ時代はプレ・コロナ時代への単純回帰ではなく、コロナ禍の経験を経た全く新しい時代になるものと予想される。組織マネジメントについても同様であり、組織の一体感・団結力を得意とする旧来型のマネジメントの存続を追い求めるのではなく、コロナ禍を踏まえた新しいタイプの開かれたマネジメントへの転換を模索すべきである。
 スタンフォード大学のグラノベッター(Granovetter)が提唱した「弱い絆の強さ(The Strength of Weak Ties)」という説によれば、真に有益な情報は緊密な人間関係からではなく、希薄な人間関係を通じてもたらされるという。家族や親友、職場の同僚など緊密な間柄の人は気心が知れている反面、その人が持っている情報はすでに自分も知っていることが多い。これに対し、たまにしか会わない知人の場合、保有する情報の重複が小さく、自分にとって新鮮な情報をもたらしてくれる可能性がある。新たな知見に基づくイノベーションを生み出すためには、閉じた組織内の「顔なじみのいつものメンバー」以外とのコミュニケーションを確保できるような、開かれた人的ネットワークに基づく組織を構築する必要がある。

4.イノベーションを生み出す組織マネジメントへ
 開かれた組織マネジメントを行うためのカギとなるのが、ICTである。本稿の冒頭で、コロナ禍の中でオンライン会議がすっかり定着してきたことを述べたが、これが一つの突破口になり得る。これまでであれば、スケジュール調整を行って物理的な場所(会議室)を確保し、参加者が決められた時間に決められた場所まで足を運ぶことで始めて会議の開催が可能であった。さらに、会議室の空間的な制約があるため、参加できる人数にも自ずから限界があった。
 これに対し、オンライン形式の場合には、場所の制約を取り払うことができ、会場までの移動に要する時間も節約できる。このため、これまでは参加が難しかった人(社内他部署の人、地方拠点の人、場合によっては社外の人など)も気軽に会議に参加することが可能になる。こうした多様な人々が参加する会議は、旧来の組織メンバーにとっては、「顔なじみでない人が参加している」という意味で居心地の悪さを感じるかもしれない。しかし、組織外の参加者が会議に新たな視点・論点をもたらしてくれたり、議論を活性化してくれたりする効果が期待できる。
 このように、プレ・コロナ時代に組織の一体感・団結力を向上させるために費やしていた労力を、組織外に開かれた人的ネットワークを構築することに投入することで、新たな付加価値やイノベーションを創出できる可能性がある。同時に、職場のダイバーシティを推進し、「組織内部」の構成員についても多様性を確保することで、さらなるシナジー(相乗効果)が期待できるであろう。これがポスト・コロナ時代の組織マネジメントのあるべき姿ではないか(図表2)。



5.おわりに
 オンライン会議のための通信インフラはプレ・コロナ時代から存在していたが、「やはり対面でないと満足なコミュニケーションが難しい」という思い込みもあり、必ずしも十分に普及していなかった。しかし、コロナ禍の経験を経て、今や多くの組織においてオンライン会議は日常的なビジネス・シーンとなりつつある。今後、この流れが後戻りすることはないであろう。
 イノベーションを生み出すオープン型組織への転換も同様であり、これまでその重要性がたびたび指摘されつつも、多くの企業でなかなか実現できなかった課題である。コロナ禍の今、プレ・コロナ時代の価値観に基づく組織の強みに固執するのではなく、ポスト・コロナ時代を見据えて新しい組織マネジメントの形を模索することが期待される。
(了)


※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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