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人材マネジメントの視点からテレワークと「ジョブ型」の関係を考察する

2020年09月09日 林浩二


1.はじめに
 テレワークが普及し常態化したポスト・コロナ時代には、上司が部下の職務行動を日々観察して「いない」ことを前提としたマネジメントが求められる。その結果、ホワイトカラーのパフォーマンス評価において、能力や勤務態度などの過程(プロセス)の重要性が減退し、結果(アウトカム)が前面に押し出されるようになると予想される(詳細については、拙稿「ポスト・コロナ時代のホワイトカラーのパフォーマンス・マネジメントを展望する」(2020年5月11日付)を参照のこと。
 このようなマネジメントの変容は、日本企業の人事処遇制度の在り方にどのような影響を及ぼすのであろうか。昨今、テレワークと関連して、人事管理をジョブ型に転換すべきとの論調が強まっているが、本稿では、人材マネジメントの視点からこの問題について考察してみたい。

2.ジョブ型とメンバーシップ型
 まず、「ジョブ型」と、その対立概念として語られる「メンバーシップ型」について簡単に整理しておきたい。ジョブ型とは、担当職務を明確に定めたうえで採用し、スペシャリストとしての活躍を促す人事管理のことを指す。この場合、一般に処遇の仕組みは、それぞれの職務(ジョブ)の市場賃金に連動した職務給(職務等級制度)になる。
 一方、メンバーシップ型とは、担当職務を限定せず、組織の一員(メンバー)として採用し、ジョブローテーションを繰り返しながらゼネラリストとしての活躍を促す人事管理のことをいう。この場合、一般に処遇の仕組みは、職務ではなく社員の職務遂行能力(スキル)に基づく職能給(職能資格制度)となる。(図表1)



 実は「ジョブ型かメンバーシップ型か」という議論は最近始まったことではなく、数十年前から延々と議論され続けている課題である。年功秩序を中心とした日本的雇用慣行に基づく職能資格制度(メンバーシップ型)から、欧米流の職務等級制度(ジョブ型)への転換を図るべき、という議論である。
 それでは、どの程度メンバーシップ型からジョブ型への転換が進んでいるのであろうか。労務行政研究所「人事労務諸制度実施状況調査(2018年)」によれば、職能資格制度(≒メンバーシップ型)の採用率は50.0%、職務等級制度(≒ジョブ型)は24.1%となっている。意外とジョブ型が多いと感じるかもしれない。
 しかし、必ずしも本来的な「ジョブ型」の趣旨通りに制度を運用できていない企業も多いと考えられる。メンバーシップ型に特徴的な年功秩序が、雇用慣行という「習慣」あるいは「癖」に根差しているためである(一度身に付けた習慣や癖を矯正するのは容易ではない)。もう一つの理由は、ジョブ型を支える職種別の労働市場が日本では未発達であるためである。形だけ職務給を導入しても、報酬の根拠となる職種別賃金が形成されていないため、運用に行き詰まるケースも少なくないと考えられる。

3.テレワークは「ジョブ型」を加速させるか
 企業活動のグローバル化に伴い、人事処遇制度は、社員の属性(人)ではなく、社員の職務(仕事)に即した仕組みに変容していかざるを得ない。このため、日本企業の人事管理の在り方は、人基準のメンバーシップ型から仕事基準のジョブ型に徐々に転換していくことが見込まれる。
 テレワークの隆盛は、この動きを加速させる可能性がある。冒頭に記したとおり、テレワークが常態化した勤務環境下では、「真面目に取り組んでいたか」「ガッツがあったか」という仕事の過程(プロセス)ではなく、結果(アウトカム)中心のマネジメントにシフトしていく。プロセスではなくアウトカムを重視した評価を行う前提として、社員に求める「アウトカム」の中身をこれまで以上に明確にする必要がある。しかし、日本企業では、目標管理において設定される目標があいまいで抽象的な場合が多く、期中の進捗管理やフィードバックも不十分である。これでは結果(アウトカム)を中心に据えたパフォーマンス・マネジメントは難しい。
 その原因の一つとして、「メンバーシップ型」の考え方に基づき、これまで個々の社員の仕事の範囲や職責を曖昧にしてきたことが挙げられるであろう。テレワーク時代のパフォーマンス・マネジメントにおいて決定的に重要になるのは、「社員一人ひとりの目標の明確化」である。社員のジョブ(職務内容や職責)が曖昧なままでは、これはおぼつかない。
 そこで、ジョブの明確化に向けて、たとえば、職務記述書(図表2)を作成すること等が対応策の候補となり得る。職務記述書とは、個々の社員の担当業務について、職務内容、職責、必要とされる能力・経験等を整理したもので、欧米諸国を始めとしてジョブ型雇用を採用する企業では一般的である。



4.中長期的なロードマップと当面の対応策の峻別を
 以上のように、テレワークをきっかけとして、「ジョブ型」への関心が高まっている。ただし、「テレワークを機能させるためには職務給への切り替えが不可欠」というのは少々論理が飛躍している。先に述べた通り、雇用慣行や労働市場の制約等により、職務給には一定の運用難度が存在する。
 テレワーク時代に必要なのは、社員一人ひとりに求めるアウトカムをクリアにし、小まめな進捗管理とフィードバックを行いながら目標達成に導くマネジメントである。そのためには、まずは社員の職務内容や職責を明確化するための取り組みを先行させることが重要である。職務給(職務等級制度)の導入など処遇制度面での「ジョブ型」の導入については、雇用慣行や労働市場等の人事管理の基盤(インフラ)の変容状況を踏まえて実施する、という漸進的な発想に基づく対応で差し支えないであろう。
 先に述べた通り、長い目で見れば、人基準の人事管理から仕事基準の人事管理への転換が不可避と考えられる。中長期的な「あるべき姿」を見定めてロードマップを作成したうえで、コロナ禍を踏まえた当面の対応を急ぐべきである。

※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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