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共創型PPP事業が創るアートのエコシステム ~VUCA時代のアート・クリエイティブ都市政策~

2020年08月01日 前田直之


VUCA・デジタル時代に求められる感性と直観
 我々を取り巻く足下の社会は、VUCA(Volatility(激動), Uncertainty(不確実性), Complexity(複雑性), Ambiguity(不透明性)の時代と言われ、将来が非線形で続き見通すことが難しいとされる。しかし、そのなかにおいても我々は、暮し方や働き方、個々のアイデンティティに新たな価値観をもたらそうとしているSociety5.0という、AIやIoTの発展で形づくられる次世代の姿を描き、構築することが必要である。
 人々の発想やアイデアに基づくアート・クリエイティブの分野は、AIやIoTでは代替できない、人間の「感性」「直観」が生み出すものである。昨今は、このアート思考やデザイン思考などを日々の生活や経済活動に取り入れることの重要性が謳われるようになった。なかでも筆者が注目するのは、ゼロからイチを生み出す閃きよりも、混沌としたVUCAの時代の中で、人が五感によって感じる「正しい」「美しい」「心地よい」を見極める力=審美眼を備えることである。
 例えば、森記念財団がまとめた「世界の都市総合力ランキング」上位の都市では、文化施設の状況や文化・芸術イベントの件数などを指標とする「文化・交流」スコアが総じて高い。芸術に触れる機会の多い市民の審美眼が高いレベルにあり、これが高い都市力を支えていると推察できよう。
 英国では、人々のクリエイティビティが他産業に与える影響についても「クリエイティブエコノミー」(文化芸術がもたらす経済効果)の指標として分析している。これは、「創造性」を持つ人材があらゆる産業において重要であることを英国が認識していることを示している。

公共セクターのアート・クリエイティブ都市政策の役割
 市民の感性や創造性は、アート・クリエイティブ都市政策によって磨かれる。それには、美術館やギャラリー、ホールなど文化芸術施設の整備と質の高い展示・公演のほか、芸術祭・音楽祭などのイベント開催、地元アーティストやクリエイターの活動支援といった環境整備が重要な役割を担う。
 質の高い、本物の文化芸術に日常的に触れられる環境は、人の「五感」を刺激し、審美眼を備えた感性と創造力を生み出す。また、自発的に文化・芸術を学び、表現できる場の存在は、アート・クリエイティブ産業を目指す人材を育み、引き寄せる。このエコシステムが生まれることで、文化・芸術の質が高まり、それが都市の競争力の源泉となる。

アート・クリエイティブ都市政策としての共創型PPP事業
 平成30年3月に文化庁が策定した第一期文化芸術推進計画には、「国及び地方公共団体は(中略)、文化芸術により生み出される本質的価値及び社会的・経済的価値を文化芸術の継承,発展及び創造に「活用・好循環させる」ことが重要である。」と示された。文化・芸術政策に、持続可能な都市政策・経済政策の位置づけが与えられたのである。
 人々の創造性を喚起する文化・芸術の価値は、より多くの人が鑑賞・体験することで最大化するが、公共セクターにはそのノウハウが不足している。新しい文化・芸術政策の目標を達成するためには、民間の資金やノウハウを最大限活用し、プロモーションからマネタイズまで推進する必要がある。

新たな価値を共創する「弘前れんが倉庫美術館PFI事業」
 青森県弘前市では、築100年近いれんが倉庫をリノベーションして美術館にし、15年間の運営と維持管理を行うPFI事業を実施した。本事業の特徴は、一般的なPFI事業ではなく「共創型PPP」として事業化したことである。
 筆者が本事業を「共創型PPP」と呼ぶ理由は三つある。一つ目は、美術館運営の根幹となる「どのような作品を収集・展示するのか」について、民間事業者の提案を求めたことにある。二つ目は、民間側が得る事業収益が一定の条件を超えた場合には、市に一部還元する「プロフィットシェア」の仕組みを導入したことである。そして三つ目は、多くの官民対話によって課題を解決し、お互いの信頼関係を構築しながら事業を推進できたことである。
 これからのアート・クリエイティブ都市政策は、この共創型PPP事業によって、公共に不足する機能を民間が補完する形を中心に推進するべきである。双方の力を合わせた付加価値が、地域・都市にエコシステムを形成していくことが期待される。

※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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