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コミュニティのために何かするということ

2020年10月27日 沢村香苗


 COVID-19の感染拡大を防ぐため、人との接触回避が要請されて半年以上経った。その中で私の所属するコミュニティは大きく変化した。例えば会社の提供するオフィスという「場」で、私は仕事を介して同僚たちとのつながりを形成していた。今は、オンラインで場(会議)が開き、用件が終われば即座に閉じることが繰り返されている。自由な時間が増えて生活が充実した一方で、同僚たちとのつながりは非連続で限定的なものになった。

 現代の私たちの生活は、地縁や血縁だけでなく社縁(会社に限らず、共通の目的や関心を基盤としたコミュニティを指す)によって支えられている部分が大きい。地縁や血縁に比べ社縁は自由に選べるが、その維持は難しい。リアルな「場」は、個人が積極的に行動しなくても、社縁を維持する装置として機能してきた。今やそれは失われ、コミュニティを維持するために何をするのかが個人に問われることになった。

 私がブラジルの伝統的な格闘技であるカポエイラを始めて2年ほどになる。昨年、来日した老師範が私たちを呼び集め、「自分はストリートチルドレンだった。自分がここまで生き延びられたのはカポエイラのおかげだ。だから自分はそのコミュニティに貢献したいと思って教えてきたし、こうやって日本にも来た。君たちもコミュニティのために自分は何ができるのか常に考えてほしい」と言った。文字にするとありふれているが、実際にずっとそれをしてきた人の言葉には迫力があった。

 私はもう1つ、俳句の会にも所属している。同じ場所で毎月句会をすることで、そのコミュニティは維持されてきた。誰も積極的でないが、決まった場所に集まり帰っていく距離感がちょうどよかった。集まれなくなって以降、連絡係をしている私はメンバーが徐々に元気を無くしていく様子を感じていた。そこで職業を活かし、通信環境の実態把握アンケートを行ったところ、全員がスマートフォンを持ちLINEを使用していることが分かった。高齢のメンバーが多いので意外だった。結果を踏まえてLINEのグループ通話によるオンライン句会を提案したが、主催者を含むメンバーの不安は強く、すぐには受け入れられなかった。そのため、有志を募り試行することにした。
 すると、スマートフォンを購入したばかりという古参のメンバーが参加してくれた。終了後、彼女は、オンライン会議未経験でも簡単にでき、楽しめたというメールを他のメンバーに送ってくれた。そこから参加者は順調に増え、初回は緊張で前夜眠れなかった人が、今は新規参加者に段取りを説明している。比較的年齢が高いメンバーの方が、自信がないと言いながらもオンライン句会への参加意欲が高い。 
 もしこれが定着したら、これまでによくあった、体力低下や介護等を理由とした、会からの不本意な離脱は減らせるかもしれない。リアルな場での会だけに頼ったコミュニティから、大げさに言えば、よりレジリエントなコミュニティに変化しつつあると感じている。

 そもそも誰に頼まれたわけでもないし、仕事や家庭で忙しい中、私が最初の一歩を踏み出すべきか迷った。だが、老師範の言葉を思い出し、やりたい気持ちがあるなら、やってみようと思った。
アフターコロナ、ポストコロナ、ウィズコロナといろいろな呼ばれ方があるが、世界が大きく変わったのは間違いない。 コミュニティについて言えば、これまでのように誰かが用意した「場」を使うことから、自分たちで場を作り、維持する営みが個人に強く求められるようになった。面倒なところもあるが、そこに存在する予測不能な変化の可能性に、私は少しわくわくしている。


※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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