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ビューポイント No.2020-021

明確化するパンデミック後世界のニューノーマル(1)ー米中分断激化、DX産業・社会再編、ステークホルダー資本主義

2020年10月26日 山田久


新型コロナウイルス感染症は治療法が少しずつ分かってきたことで、重症化率が低下している。全面的な都市封鎖や一律の厳しい活動制限を導入することは避けられる状況が生まれつつあり、経済活動も徐々に水準を回復していくことが期待できる。とはいえ一気に制限を解除することはリスクがあり、特効薬や治療法が確立されるまでは、なお経済社会活動に一定の制限は残さざるを得ない。新型コロナウイルスと共存していく道を選ばざるを得なくなったのが現実であり、そのもとではかつての社会経済活動の在り方をそのまま復元することはできない。パンデミックをきっかけに世界はすでに変わってしまったのであり、その変化は今後加速していくと予想される。

パンデミックが方向性を決定づけた一つ目の新常態は「米中分断激化」である。中国政府による香港国家安全維持法の決定を経て、米国の対中強硬姿勢はいまや明確になり、それは11月の米大統領選の結果に左右されないだろう。一方、中国は当初感染症への対応が拙く、経済への打撃も大きかったため、先行きを危ぶむ声もあったが、結果的に同国の国際的なプレゼンスが高まる公算が大きい。2020年1~3月期こそ経済の大幅な落ち込みを記録したものの、翌期には急回復を果たし、他国に先駆けて成長軌道に復帰した。さらに海外渡行者が激減したことで、最大のアキレス腱である経常収支赤字化の時期が遠のき、過剰投資を国内貯蓄で賄うことができる状況が生まれている。このもとで、当面は巨額の債務を抱えつつも、経済体質の改善によって持続可能な経済モデルを創造することを追求していくことになろう。

米中対立が決定的なものとなり、その期間も予想以上の長期にわたって続くとみる必要があるが、それは米ソ冷戦の構図とはかなり異なったものとなろう。それは一つに、中国の経済システムが単なる収奪的システムではなく、国民生活の底上げやイノベーション喚起の仕組みを内在化しているからである。加えて、貿易・投資の関係がかつては東西に分かれていたが、現在は中国と米国、そして先進国との間の経済的相互関係が、極めて深いレベルにまで広がっている。米中間のハイテク関連分野のデカップリングは着実に進み、米国の同盟国も含めてこの分野での中国との取引は細っていく。その一方で、自動車や化粧品など消費財については、先進国の主要企業は世界最大の市場である中国無しではビジネスが成り立たない状況にあり、現地法人の生産・販売を中心にビジネスは継続される。様々なリスクとチャンスを個別産業・個別企業ごとに判断を行い、中国との取引が行われ、サプライチェーンが複雑に再編されていくことになろう。

パンデミックが方向性を決定づけた二つ目の新常態は「DX産業・社会再編」である。ウイルス感染防止が経済社会活動のオンライン化・デジタル化を一気に進めることになったが、その最大の恩恵を受けたのが、いわゆるGAFAに代表されるデジタル・プラットフォーマーである。米国の特定企業が世界的に市場を独占する傾向を強めているなか、各国当局はその弊害に対抗する措置をとり始めている。そのほか、デジタル革命の産業構造への影響として重要なのは、既存の産業の在り方を大きく変えるとともに、既存の枠組みを無くして異なる産業間の融合を進めることである。パンデミックのもとでは、当面事業の売上が元に戻らないため、企業には効率化が求められ、産業の再編が進みやすくなる。

物価体系・所得分配面にも大きなインパクトが及ぶ。デジタル技術の活用による工場・店舗・オフィスを問わない「自動化」は既存の職務を代替し、直接的には賃金の押し下げ方向に影響する。デジタル技術は定型的な業務を代替する一方、非定型的な業務の需要を増やす面があり、職種別の賃金格差を拡大する方向にも作用する。こうした賃金の伸び悩みと所得格差の拡大は、戦後民主主義社会の安定的基盤になってきた中間階層の多くを没落させるという社会変動をもたらし、社会の不安定化につながっている。端的には、変化に取り残された人々の社会への大きな不満が鬱積しているのである。それがトランプ政権の誕生をもたらしたのであり、「ワシントン・コンセンサス」と呼ばれた新自由主義的な経済思想は退潮が鮮明になっている。パンデミックを経て、その流れは一層加速しており、とりわけ国家資本主義的な中国モデルが頑強さを示すなか、市場放任型の経済社会モデルに代わる新たなモデルが求められる状況にある。

賃金・所得状況の変化のもとでインフレ率は落ち着き、いまやデフレ回避が先進国にとって重要な課題となっている。ディスインフレや緩やかなデフレは直接的には実質所得を押し上げるファクターであるが、一方で債務者利得を消滅させ、イノベーションにはマイナスに働く。加えて、低金利を通じて資産価格を押し上げ、富の偏在を一層大きくする。貧富の格差が余りにも大きくなれば、社会の分断は進み、民主主義社会の基盤が一層弱体化していく。パンデミックは需要の落ち込みを通じてデフレ圧力を高め、こうした望ましくないトレンドを加速させる懸念がある。物価動向の歴史的転換という側面からも、戦後の社会経済モデルの根本的な見直しが迫られている。

以上のような社会経済モデルの見直しは、企業経営の在り方にパラダイム・シフトを求めている。企業経営が目指すべき目標として、単なる(量的な)収益の極大化や株主利益の最大化にファースト・プライオリティーが置かれる時代は終わり、「ESG」や「SDGs」といったキーワードに示されるように、様々なステークホルダーとの関係を考慮して、収益の質や成長の持続性が問われる時代が訪れている。政府の在り方も単純な「小さな政府」から「機能する政府」へのパラダイム・チェンジが生じ、政府の関与をできるだけ少なくすべきという流れから、必要な政府の役割は強化すべきという流れへの転換がみられている。

・明確化するパンデミック後世界のニューノーマル(1)ー米中分断激化、DX産業・社会再編、ステークホルダー資本主義(PDF:1165KB)
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