ビューポイント No.2020-020 国際比較からみた新政権の課題ー「デジタル化」を梃子に「規制改革」「競争政策」の強化を 2020年09月17日 牧田健8年弱続いたアベノミクスについて、「6重苦」の解消、長期にわたる景気拡大と雇用増、「働き方改革」等が前向きに評価できる一方、将来に禍根を残す金融・財政政策、潜在成長率の低迷、デジタル化の遅れ等マイナス面も多々あり、功罪相半ばすると評価されよう。一方、国際的にみれば、わが国経済の存在感低下を止めることができなかった。平均実質GDP成長率はOECDでギリシャ、イタリアに次ぐ低い伸びにとどまった。円安進行にもかかわらず輸出が伸び悩んだほか、企業の人件費抑制の動きや政府の中小企業保護姿勢の結果として、付加価値労働生産性の伸びも一段と低下した。この間、対外直接投資が大幅に増加しており、むしろグローバル展開を行っている企業と内需型企業との景況感格差の拡大を招いた側面が否めない。安倍政権は成長力の向上に向け、多岐にわたる取り組みを行ってきたが、諸外国と比べてそのスピードが遅く、この間IMDの「国際競争力ランキング」は低下傾向をたどった。内訳を探ると、政府効率性が一貫して低いなか、ビジネス効率性が低下した。世界銀行・IFC発表の「ビジネス環境ランキング」も低下傾向にあり、IT化の遅れや縦割り行政が足枷になっている。セクターごとにみると、世界経済フォーラムが発表している「旅行・観光競争力ランキング」では、旅行サービス関連のインフラ整備により順位が高まる一方、イノベーションやデジタルの分野では、アジアのなかでの地盤沈下が顕著になり始めている。WIPOが発表している「グローバル・イノベーション・インデックス」では、人的資本と研究、創造的なアウトプットの項目で、IMDが発表している「世界デジタル競争力ランキング」でも、人材、事業変革の機敏性、規制の枠組みの項目で、主要国に比べ見劣りが顕著になっている。わが国・企業の人的資本に対する投資不足、IT化と事業変革の遅れ、さまざまな規制改革の遅れが成長の足かせになっている。各種ランキングをみると、わが国政府・企業は、インフラ整備や枝葉部分の改善等には積極的に対応できるが、組織や事業構造といった根幹に関わる分野については、対応が遅いことがうかがえる。これは、縦割り行政の弊害、高齢化あるいは過去の成功体験に依拠した保守的な姿勢等が根本的な要因とみられる。また、人材育成をほぼ企業に依存し、国として十分な制度設計ができていなかったことも、わが国全体の競争力低下を招いているとみることができる。アベノミクスでは、金融・財政政策のアクセルを踏み込んだものの、中長期の成長につながる規制改革・競争促進政策を徹底することができなかった。菅新政権における当面の課題は「コロナ下での経済再生」であるが、財政面からの下支え等を通じてコロナ対応に目処がつき次第、「デジタル化」を梃子に、行政の縦割りにメスを入れると同時に、「リカレント教育」の拡充などを通じて人材育成を図りつつ、企業の変革を促すために「規制改革」「競争促進政策」を断行していくことが求められる。・国際比較からみた新政権の課題ー「デジタル化」を梃子に「規制改革」「競争政策」の強化を(PDF:703KB)