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防災備蓄品に落とし穴が? 災害体験の情報は有効だが、平時に使っておく必要性

2020年09月08日 清水久美子


 9月1日は「防災の日」だった。1959年に発生した伊勢湾台風の教訓を活かすため、関東大震災の発生日という象徴的な日を選定し1960年に制定されたという。しかし近年は自然災害の規模・頻度が拡大傾向にあり、メディアを通じた注意喚起が積極的に行われるようになったことから、今年はすでに防災備蓄品のチェックを終えていたという方も少なくないのではないか。我が家ではここ1年の間に出産、引っ越しというイベントがあった他、新型コロナウイルスにより在宅避難でローリングストック(日常備蓄)の意識が芽生えたことや、リモートワークが中心となり生活の大半を自宅で過ごすことになったことから、中身の見直しを数回行った。

 備蓄品を考えるにあたって、最近はSNSを積極的に活用している。避難先からTwitter等でリアルタイムに情報発信をして下さる方が増えたおかげで、臨場感のある情報が手に入るからだ。例えば子どもを抱っこすると手がふさがるためハンズフリーの懐中電灯が役立つことや、携帯電話のキャリアは家族間で分けておくことで回線がダウンした場合のリスク分散となるといったことは、事態の真っただ中にいる方から生の声を聞くとリアリティと説得力があった。

 しかし最も大きな学びは、いざ災害や避難の状況になった時に、備蓄していたものを思ったように使えなかった、想定外のことが起きた、という複数の声から得られた。自分の生活が大きく変わったこともあり、重い腰を上げて、実際に備蓄品を試しにいろいろと使ってみたところ、いくつか新しい気付きがあったのだ。例えば子どもを抱っこして一番問題だったのは、懐中電灯が持てないことではなく、子どもを抱っこしながら避難バッグを背負うとバランスが悪く転倒しやすくなるということだった。結果、避難バッグを抱えて子どもをおんぶするほうが安定することが分かり、そのためには平時から子供をおんぶに慣らしておかないといけないという日常へのフィードバックも得られた。また携帯しやすいパッケージの乳幼児向けミルクも備蓄メニューに入っていたが、子どもに飲ませたところアレルギーを発症してしまった。飲ませたことのあるブランドで、味の相性ばかり気にしていたが、未成熟な乳幼児は加工過程の違いによってアレルギーを発症するケースがあるとのことだった。もしこれが災害の真っただ中だったらと想像すると冷や汗が出た。現場からの情報が潤沢に手に入ることで、備えの水準が上がったと錯覚し、実際に使ってみるという確認を疎かにしてしまっていたことを反省した。これ以降、新規に購入したものはなるべく1度はシミュレーションを兼ねて試用を欠かさないようにしている。

 非常時は救急・救助へのアクセスが困難となることが予想されるからといって、一見便利に思えても使用経験のないものを備えるのはリスクになり得る。自然災害に遭遇する確率が全国的に高まっている今、災害中に集めた情報をもとに備蓄品を選ぶにせよ、平時に可能な限り実践に近い環境で使ってみておくことが重要だ。


※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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