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リサーチ・レポート No.2020-020

わが国財政の持続可能性についての検討ー2030 年代の不安化リスクに備え、景気回復後着実な財政健全化が不可欠

2020年08月26日 牧田健


新型コロナウイルスの感染拡大への対応により、わが国は財政面で一段の重石を背負うことになった。そこで、足元のわが国の財政状況を改めて整理したうえで、わが国財政の持続可能性について検証し、今後の採るべき対応を検討していく。

わが国は未曽有の公的債務を抱えているが、低金利が続くもと対名目GDP比の大幅な上昇は回避されている。低金利の背景の一つに日銀による超金融緩和があるが、より本質的には、わが国経済が低成長・低インフレ・過少投資・賃金抑制という「ディスインフレの罠」に陥っていることがある。この構図が崩れない限り、大規模な経常黒字が維持され、財政赤字と低金利が併存し続ける可能性が高い。しかし、インフレ高進が現実味を帯びれば、その前提が崩れ、経済・金融市場の混乱は避けられない。したがって、わが国財政の持続可能性はこの「ディスインフレの罠」がいつまで続くのか、そこからの脱却にあたり市場の混乱を最小限にとどめることができるか、にかかっている。

「ディスインフレの罠」からの脱却は、必然的に金利上昇を招く。輸出拡大を起点とする高成長に伴う高インフレであれば問題は少ないが、内需拡大によるインフレ高進は経常収支の赤字化を通じて一段の金利上昇を招きかねない。また、持続的な資源価格の高騰や円安進行などを通じたコストプッシュによるインフレ高進も、内外で円資産離れを招く恐れがある。

経常赤字は、財政赤字のファイナンスを海外資金に依存することを意味しており、未曽有の公的債務を抱えるわが国にとって、経常黒字維持はまさに生命線といえる。貯蓄投資バランスの観点からみる限り、経常黒字は中長期的にわたって確保できる可能性が高いが、近年民間部門の貯蓄縮小に比べ財政赤字縮小ペースが鈍化しており、成長につながらない財政支出が増えていけば、先行き経常赤字に転じる恐れも否定できない。また、高齢化の進行に伴い家計部門がネットで貯
蓄超過から投資超過に転じる可能性があり、2030 年代以降の経常黒字確保は盤石とはいえない。

経常収支が赤字化しても必ずしも持続的な通貨安が生じるわけではないが、現状40%強に及ぶ日銀の国債保有率が一段と上昇していけば、中央銀行の独立性欠如、中央銀行による財政ファイナンスに対する懸念が強まりかねない。また、経済成長につながらない財政支出が増大する場合も、2030 年代以降家計純資産で政府債務を賄えなくなり、財政ファイナンスへの懸念、国債消化の海外依存が高まり、大幅な円安が進行する恐れがある。

新型コロナ禍において、必要であれば企業・家計向けの所得補填策や景気下支え策をためらうべきではない。ただし、追加の財政支出は、日銀の国債買い入れ強化を前提としても、最終的には後年度の負担を増加させるため、国民の生命維持に不可欠なもの以外は、費用対効果の高いものに絞る必要がある。景気の底打ち反転が明確化すれば、2030 年代以降生じる恐れのある危機のリスクを最小化するため、財政健全化に向け舵を切らねばならない。

財政健全化に当たっては、「経済成長」と「財政健全化」の二兎を追う姿勢に転換する必要がある。第1に、財政健全化の目標については、公的債務対名目GDP比の安定・低下ではなく、基礎的財政収支の黒字化を堅持するべきである。第2に、政府見通しにおいて成長実現ケースを前提とした財政見通しは早急に取り止め、ベースラインケースでも着実に財政健全化が進むよう、歳入増加・歳出抑制策を打ち出す必要がある。第3に、新型コロナ対応予算を特別枠にするなどして、歳出増加の恒久化を回避するべきである。第4に、GDPギャップの解消が見込まれる2020 年代半ば以降、社会保障4分野の増加に合わせて消費税率を着実に引き上げていくべきである。第5に、財政の抑制的運営に耐えうるだけの経済体質の強化も不可欠である。一人当たり付加価値労働生産性を一段と高めていく必要があり、ITをはじめとする無形資産投資の積極化、経済資源の高付加価値分野へのシフト等を通じて賃金水準を引き上げていくことが求められる。

「ディスインフレの罠」にある現局面において、早急かつ過度な財政緊縮は禁物ながら、2030 年代以降起こりかねない経済・市場混乱リスクを可能な限り極小化していくことを常に念頭に置き、規律を持った財政運営、金融政策運営を着実に行っていくことが求められる。

・わが国財政の持続可能性についての検討ー2030 年代の不安化リスクに備え、景気回復後着実な財政健全化が不可欠(PDF:1124KB)
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