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「アフターコロナ」の世界で企業に求められる「守り」「攻め」「+α」のESG対応

2020年07月15日 瓜生務


1.企業を取り巻く状況
 2020年5月25日、わが国において新型コロナウイルスの感染拡大に伴う緊急事態宣言が解除された。これに伴い、各企業は徐々に事業活動再開の動きを見せている。しかしながら、こうした動きの背景となる状況は「ビフォーコロナ」の頃とは異なっている。「アフターコロナ」の世界において、各企業は新型コロナウイルスの感染拡大防止のための取り組みを行うとともに、経済再生に注力することが求められる。各企業は新型コロナウイルスによる経験を基に、今後の事業活動の在り方を変容させるであろう。特に、新型コロナウイルスの感染拡大は、それ自体がESGリスクの一つでもあるため、企業にとっては、ESG対応の在り方をより一層見つめ直す機会になると考えられる。今後、感染症リスクを自社が管理すべき代表的なESGリスクとして捉え、「守り」を固める企業もあれば、中長期視点に基づいた「攻め」の経営を行う企業もあるであろう。
 本稿では、「アフターコロナ」の世界において、今後企業に求められるESG対応の在り方を、「守り」と「攻め」の観点で概説する。併せて、「+α」で期待される事項について論じることとする。

2.これまでのESG対応 ~「守り」の取り組み~
 元来、企業がESG対応に着手する契機は、株主/投資家、取引先、顧客をはじめとする、自社にとって重要なステークホルダーからの要請というケースが多かった。近年、ニューヨーク州退職年金基金がエネルギー事業者に対し、気候変動対策に係る戦略・ガバナンスに関する意見表明を実施したことは、株主/投資家からのESG対応要請の一形態といえるであろう。また、企業のサプライチェーン上で発生した人権リスクについてNGOが改善要請の声をあげ、それを契機に企業のESG対応が強化されたケースもある。
 上述した外部ステークホルダーからの要請をESG対応に着手する契機とする場合、ESG対応はリスクマネジメントの側面で捉えられる傾向が強い。多くの企業では、ESGに関連する個別リスクの対応要請を受け、取り組みを強化し、その結果について情報開示を行うといった「守り」の姿勢での対応が行われていることが多い。こうした対応には、ステークホルダーからの要請をきちんと把握し、自社にとって重要なESGリスクが何かを特定し、予防処置を行うことによって、企業としての責任を果たすという意義がある。

3.近年のESG対応 ~「攻め」の取り組み~
 近年、「守り」としてのESGリスク対応に加え、機会を考慮した「攻め」のESG対応が求められている。攻めのESG対応の一つの例として、ESGと密接なつながりのある「SDGsを起点とした新規事業の創出」に関して紹介する。
 2015年のSDGs公表後、社会課題解決を図るための新規事業の創出を検討する企業は増加傾向にある。この背景には、大別すると二つの事情が関係していると考えられる。
 一つは、「SDGsの達成によって、食料・農業、都市、エネルギー・素材、健康・福祉等に関して年間12兆ドルの事業機会」につながるとともに、「2030年までに3億8,000万人の雇用を創出する」(出所:Business and Sustainable Development Commission, “Better Business, Better World”より筆者訳)、というビジネス創出への関心の高まりが考えられる。
 もう一つは、SDGsへの取り組みを行うことで、「守り」のESG対応から「攻め」のESG対応への進化を図ろうとする企業姿勢を社内外に示す、ということも考えられる。

4.今後期待されるESG対応 ~「+α」の取組~
 このように、「守り」に加えて「攻め」の観点からESG対応を推進していくことは、それ自体が意義ある取り組みに見えるかもしれない。しかしながら、その根底に、ESGの取り組みを企業の持続的成長につなげることを担保する、土台となる考え方や仕組みがなければ、それらは全く無意味なものとなるであろう。
 近年、その仕組みづくりの一環として、役員報酬にESGの要素を組み込むという動きが日本企業においても見られるようになっている。また、考え方や仕組みの構築とともに、従業員にどのように浸透させるかについて知恵を絞ることも重要である。「アフターコロナ」の時代においては、企業がこのような「+α」の取り組みを推進するとともに、中長期的な企業価値向上を図ろうとする姿勢を示し、実践することを期待する。

※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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