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変化するグローバル経営 ~変化するコロナ後の現地マネジメント~

2020年06月23日  


Asian Identity Co., Ltd. CEO 中村 勝裕氏
山田 英司(聞き手)


 今回のコロナが社会や経済に大きな影響を及ぼすことは言うまでもないことであり、その結果として、多くの企業にも変革をもたらすであろう。特に、グローバルに事業を展開している企業においては、ビジネスモデルや、サプライチェーンの再構築などが喫緊の経営課題であるが、それと共にグローバル経営における現地マネジメントの在り方そのものについても見直しが必要になると思われる。
 コロナ後において日本企業のグローバル経営、とりわけ現地マネジメントはどのような変化を遂げるのか、以下ではタイを中心として、アジアにおける現地拠点の人材マネジメントに精通しているAsian Identity CEOの中村勝裕氏に、「変化するコロナ後の現地マネジメント」の在り方について、お話を伺った。



(山田)
 現在、多くのビジネス、特に製造業においては、グローバルでの分業体制が前提になっているといって過言ではありませんが、今回のコロナは、世界各国で同時多発的に起こったために多大な影響があったと思われます。自動車を中心として多くの製造業の集積地点であるタイにおいては、どのような状況になったのでしょうか。
   
(中村)
 タイでは3月下旬からソフトロックダウンが始まり、飲食店などは閉まりましたが、インドなどのように通勤まで禁止されるわけでは無かったので、多くの日系企業では工場などは通常通り出勤し、稼働するケースが多く見られました。
 一方、バンコク市内のオフィスワーカーの多くは8割方在宅勤務に切り替えていましたので、自宅での作業環境の整備、インターネットなどの通信インフラ、それらの手配に対する手当等のルール整備などに多くの駐在員は急ピッチで追われました。タイは感染リスクがそれほど高くなかったので、日本に帰国するよりも残った方が安全という認識のもと、ほとんどの日本人駐在が帰国せず、現地で業務に当たっていました。

(山田)
 このような中で、東南アジアは比較的コロナの影響が限定的であったため、早期に経済活動が再開されるとの見方があります。その意味では、日系企業も現地企業のオペレーションを再開させる動きがあると思いますが、現状はいかがでしょうか。

(中村)
 6月以降、タイでは新規感染者数は実質ゼロが続いていますが、非常事態宣言はまだ出ていますので、50%のリモートワーク程度の勤務形態を多くの企業が選択しています。リモートワークはコミュニケーションが減るというマイナス面は指摘されながらも、一部の社員からは評価が高く、部分的に残すケースが多いのではと想定しています。
 生産現場においては、取引企業の声を集約すると、5月が稼働停止の底で、6月時点では稼働を完全にストップさせている企業はかなり少ないと思われます。今後の回復動向ですが、家電系企業は比較的悪くない見通しで8割、9割くらいの数字に戻るのではないかと言う声がある一方、自動車関連企業にとって、2020年はやはり悲観的な見通しで5、6割の稼働状況といったところです。

(山田)
 一方で、日本に目を転じると、緊急事態制限後も、当面は一定の活動が制限されることが予想されます。特に海外への渡航については、以前のような自由度を取り戻すには相当の時間がかかると思われますが、当面はどのような体制で海外拠点が運営されていくのでしょうか。
   
(中村)
 日本とタイ、またタイとその他アジア諸国の移動がいつ頃解禁されるかが全く不透明な状況であるため、各社とも、様子見といったような状況が続いています。ちょうど赴任者の入れ替わりの時期でしたが、前任者の任期延長、後任者の赴任凍結という暫定的対応を多くの会社が取っています。
 これを機に駐在員を削減して、本社からリモート管理の体制に移行できるのではといった考え方も一部にありますが、具体的に検討していくにはあまりに先が見えないため、向こう数カ月はコロナの収束具合を見ながら判断していくことになりそうです。
 一方で、当然ながら出張はすべてストップとなっており、それによるコスト削減効果がかなりあるようです。これをきっかけにコロナ終息以降も出張の制限は続くと思われます。

(山田)
 話は変わりますが、現地におけるローカルスタッフの成長と自律化促進は、コロナ以前から、多くの企業のグローバル経営上の課題であったと認識しています。今回のコロナ問題により日本からの移動の制限が大きい中では、現地の自律性が求められると思いますが、現地のオペレーションをスムーズに回復させ、維持するまでの過程で、これらの課題への取り組みが加速すると思われますがいかがでしょうか。

(中村)
 コロナによる現地化経営の促進については、会社によって反応が分かれています。
 「現地化経営」は日系企業の長年の課題でしたが、ローカルスタッフと日本人との能力差と、日系企業の独特の文化が理由となって、なかなか進んでいませんでした。その課題については、コロナによって解消するわけではありません。特に製造業では、日本人技術者の代わりをタイ人が務められるというケースは稀であって、逆に危機対応においては日本人を中心に乗り切ったこともあり、日本人への依存度が高まっているという声があります。
 一方で、主にはバンコク市内の販売法人などでは、従前から現地人の積極的な育成と、現地文化を尊重した経営をしており、コロナを契機にして日本本社によるリモートマネジメントの検証作業がある意味でできたので、これをきっかけにさらに現地化を加速させるという動きもがあります。
 より根深い問題としては、コロナ以前から日本企業にはローカルのマネジメント人材が集まりにくいという課題がありました。それは給与水準の相対的な低さにより採用競争力が弱いことや、現地幹部および日本本社とのやりとりが日本語で行われており、「日本語が出来ないと出世できない」というイメージが強くあることがその理由であり、コロナ危機を契機として、こうした根本的な問題を解決できるかどうかが今後のカギと考えます。成果に基づく評価制度への切り替えや、より国際感覚に優れた駐在員に若返りを図るという動きがこの数年目立ち始めていますので、少しずつ変革は進んでいくでしょう。

(山田)
 コロナ後において、経済・社会はその様相を大きく変化すると思われ、企業経営もその影響を大きく受けることは必定と思われます。この中で、グローバルでのオペレーション体制の再構築や、現地のマネジメントの変化にどの様に対応してゆくべきか、そのポイントをお聞かせください。

(中村)
 まず、日本企業にとっての東南アジア、特にタイの位置づけが相対的に低下するという意見はあまり聞かれません。脱チャイナや、生産の国内回帰という動きもある一方で、グローバルなサプライチェーンについては、しっかりとリスク分散して構築しておく重要性を、今回のコロナ危機で各社が再認識しました。そんな中で、コロナを比較的軽微な被害で乗り切ったタイ、そしてベトナムは、今後もサプライチェーン上の重要拠点として位置づけられるでしょう。
 一方で、価値創出の在り方で日本企業にとって圧倒的に不利になるのが「リモート化」です。従来から、日本企業は「現場主義」でリスクを減らし、「すりあわせ」という感覚を生かしたものづくりをしてきました。英語が話せなくても、現場に乗り込んで身振り手振りで感覚を伝えて人材教育をしてきた歴史があります。コロナウイルスによってこうした強みを維持するのが難しくなってしまいます。今後は、よりオペレーションを標準化して属人性を無くしつつ、映像やテレビ会議を活用して、効率的に教育していく対応が急務となるでしょう。
 また、今回のコロナ危機は、日本企業の弱点といわれていたリーダーシップについても問いを投げかけたように思います。危機的状況の中、矢継ぎ早に様々な判断をしなくてはいけない局面において、現地の経営者がいかに迅速に判断をするかが問われました。中には、本社からの指示を待つばかりで右往左往してしまい、現地スタッフの不安を増大させてしまった日本人幹部もいたと聞きます。一方で、自らリスクを背負って決断し、ビジョンを示し、従業員を元気づけるようなメッセージを送ったことで、経営者として大きく成長した方もたくさんいらっしゃいます。
 現地幹部といっても中間管理職と位置付けられがちなのがこれまでの日本企業でしたが、不透明さを増す今後の世界においては、より強いリーダーが求められます。コロナによって見えた各拠点のリーダーのあり方を一度総括しておくことで、今後のグローバル経営を担うリーダーに必要な要素は何かを考える格好の材料となるのではないかと思います。

(山田)
 本日はお忙しい中、貴重な話をお聞かせいただき、ありがとうございました。



 今回、お話を伺った中で、特に印象に残ったのは、「厳しい環境の中でこそ真のリーダーシップが問われる」という点である。確かに、今回のコロナショックの環境下において、経営トップや幹部からも同じような話を耳にしたが、国内においては未だ暗黙知のマネジメントが幅を利かせていることも事実である。
 この状況から脱却するためには、ビジョンを示し、的確な意思決定を行いつつ、従業員を鼓舞できる、新しいリーダーの誕生が必要になる。その点で、海外拠点はリモートでコミュニケーションをとれるとはいえ、従来よりも制限された環境であることは確かであり、ローカルスタッフとともに難局を乗り切るための胆力がより一層問われるであろう。その意味では、次世代のリーダーは、海外現地拠点から生まれるかもしれない。




中村勝裕 氏
Asian Identity Co., Ltd. CEO
上智大学卒業後、2001年ネスレ日本株式会社に入社。2005年株式会社リンクアンドモチベーションに転職し、人材育成、組織変革のプロジェクトを担当。 2010年、株式会社グロービスに転職し、シンガポールへ赴任。東南アジアでの人材開発プロジェクトを手掛ける。2015年、東南アジア発の組織人事コンサルティング会社として、Asian Identity を設立し、同社代表に就任。現在はタイを拠点としながらアジア各国でのコンサルティングや講演活動を手がける。

■Asian Identityについて
アジアにおける人事組織コンサルティングを手がけるコンサルティングファーム。2014年にタイで設立され、東南アジアの人事領域・組織開発領域の課題に対し、タイ人社員を中心としたコンサルタントがチームでサポートを行う。

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