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JRIレビュー Vol.8,No.80

アメリカ経済見通し

2020年07月31日 井上肇


アメリカでは、2020年3月半ば以降、活動制限が広がるなか、景気が大きく下振れした。全米経済研究所(NBER)は、2009年6月から始まった過去最長の景気拡大が2020年2月にピークを迎え、3月から景気後退局面入りしたと認定した。

企業部門では、政府、FRBの迅速な政策対応により、多くの企業が活動制限期間中の資金繰り破綻を回避できたとみられる。もっとも今後は、企業債務が元々高水準であったことも相まって、デレバレッジの動きが設備投資などの重石となる見込みである。

家計部門でも、政策対応が失業の抑制や家計の所得補填などの面で一定の効果があったとみられる。もっとも、当面は消費者の自粛ムードが残り、個人消費は新型コロナ流行前の水準を下回る状況が長引く見通しである。元の経済活動水準に戻るのに2年程度かかるため、労働市場では失業率の高止まりが続く見込みである。

財政政策についてみると、共和党は経済活動の再開を優先させたものの、6月入り後、新規感染者が急増するなか、財政面からの追加支援に前向きになり始めている。このため、今夏中に第4弾の経済対策が成立すると予想される。ただし、財政見通しの悪化を懸念する声もあるため、上程中の民主党案よりも規模が縮小される公算が大きい。

金融政策についてみると、FRBは、9月のFOMCで、①インフレ率に紐づけしたフォワードガイダンスへの修正、②期限を明示しない資産買い入れ政策への移行、を決定すると予想している。今後、フォワードガイダンスが十分に機能せず、大幅な金利上昇が懸念される場合には、中短期ゾーンでのYCTの活用が検討される見込みである。

アメリカ経済の先行きを展望すると、2020年4~6月期は年率約3割のマイナス成長となった後、7~9月期以降はプラス成長に転じる見込みである。もっとも、感染拡大への懸念が残るなか、Ⅴ字型の力強い景気回復は見込み難い。経済活動水準が新型コロナ流行前に戻るのは2022年以降となろう。

新型コロナをきっかけとして様々な分野で二極化が加速している。家計部門では、相対的に学歴の低い労働者や黒人労働者が多く失業する一方、富裕層は緩和的な金融環境の下で資産規模を拡大している。また、企業部門では、消費者のEコマースシフトでリアル店舗が苦戦する一方、オンライン事業者・IT企業には追い風が吹いている。

加えて、反中国・反グローバリズムの動きも加速している。対中世論の悪化などを背景に、アメリカの政界は反中国では一枚岩になっており、米中対立は長期化する見通しである。また、移民流入の抑制が続けば、多様性を原動力としてきたアメリカの中長期的な成長力の低下は避けられないだろう。
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