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リサーチ・レポート No.2020-003

コロナショックによる潜在成長率低下回避に向けて ― 大規模景気支援策とデジタル化等環境変化への迅速な対応が必要 ―

2020年05月11日 牧田健


新型コロナウイルスの世界的な感染拡大を受け、世界経済は未曽有の落ち込みとなる見込み。過去、各国経済は大規模なネガティブショックの後、往々にして潜在成長率が大きく低下してきただけに、感染拡大が終息し経済活動が再開されても、これまでの成長ペースに復帰できるのか、慎重にみておく必要がある。

経済ショックを機に潜在成長率が低下する理由として、①景気停滞の長期化により、雇用や設備のストック調整、バランスシート調整が誘発されること、②外部環境が大きく変化し、既存の設備ストックや労働者のスキルが陳腐化すること、③危機の経験が、企業・消費者マインドに長期にわたって負の影響を及ぼすこと等が指摘できる。今回のコロナショックは、未曽有の景気の落ち込みに加え、ICTの利活用の重要性が一段と増すなど、これまでの生活スタイル、ビジネスの在り方が大幅な変容を強いられており、それに適応できなければ、世界的に潜在成長率が大幅に低下する恐れがある。

アメリカ、日本、ドイツなど主要先進5ヵ国の潜在成長率は、1970 年代のニクソンショック、石油危機を受け、軒並み低下。日本、ドイツでは、バブル崩壊や東西ドイツ統一等があった1990 年から2000 年にかけても成長率が鈍化した。アメリカ、フランス、イギリスでは2008 年秋のリーマンショックを契機に成長率の下方シフトが生じている。

今回の事態が主要先進5ヵ国と中国の潜在成長率に与える影響度合いを探るため、その要因とみられる①交易条件の悪化、②設備のストック調整、③企業・家計のバランスシート調整の動向をみると、交易条件の悪化については、日本を除く先進国では、1980 年代後半以降、交易条件はほぼ安定して推移しており、潜在成長率への影響は限られる見込み。一方、原油価格急落は、わが国と中国にとって、交易条件の大幅な改善を通じて成長率上振れ要因となる可能性がある。

設備投資のストック調整については、日本、ドイツ、アメリカ、イギリスでは投資比率が成長率に見合った水準にあり、設備投資の調整が大幅かつ長期化する可能性は小さいと判断される。これに対し、フランス、中国では成長率対比投資が過剰になっており、今後、設備のストック調整が本格化する恐れがある。

景気の大幅悪化に伴い、企業・家計のバランスシート調整が生じるのは避けられないものの、日本とドイツは、ともにバブル発生以前の水準まですでにバランスシート調整が行われており、調整が長期化するリスクは相対的にみれば大きくない。

これらを踏まえると、フランス、中国は調整が深刻化する要素が多く、潜在成長率が大きく低下する可能性がある一方、ドイツとわが国は、景気を早期に回復軌道に乗せることができれば、潜在成長率が大幅に低下するリスクは小さい。したがって、わが国では目先、雇用維持、企業倒産の回避等を通じて景気の落ち込みをできるだけ小幅にとどめるよう、大規模な財政支援策を打ち出す必要がある。

一方、わが国のデジタル化の遅れが明らかになるなか、外部環境の変化による潜在成長率の低下を招かないよう、官民ともに、デジタル化の推進加速に注力していく必要がある。デジタルトランスフォーメーションの推進にあたり、デジタル人材の育成や硬直的な雇用システム等の見直しも欠かせない。また、当面グローバル化の停滞が避けられないなか、内需主導で成長できるよう、生活必需品・医療関連品を中心に国内回帰を進めると同時に、賃金の緩やかな上昇が確保できるよう、量よりも質を重視した企業経営を目指していく必要がある。

景気回復が定着すれば、財政健全化にも着手しなければならない。金利の低位安定確保に向け、経常黒字を維持していく必要があり、企業の収益力強化のみならず、景気拡大に伴い政府部門の赤字が速やかに縮小するよう、税源をゼロベースで見直していくべきだろう。

これまでの債務圧縮・投資慎重化が周回遅れでわが国のポジションを良好にしている面があり、今回の事態を奇貨とし、経済再生への新たなスタートを切る必要がある。

コロナショックによる潜在成長率低下回避に向けて ― 大規模景気支援策とデジタル化等環境変化への迅速な対応が必要 ―(PDF:794KB)
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