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認知症に関する官民連携プラットフォーム構築に関する調査研究事業

2020年04月10日 紀伊信之山田敦弘、高橋孝治、芦沢未菜、高橋光進


*本事業は、令和元年度老人保健事業推進費等補助金 老人保健健康増進等事業として実施したものです。

1.事業の目的
 今後の高齢化に伴っては、地域社会全体で「認知症にやさしい地域づくり」を進め、地域社会全体として、認知症の人を受容し、認知症になっても、生き生きと自分らしく暮らし続けられる環境を整備していくことが肝要である。そのためには、行政だけではなく、民間の力を活用し、産官学が一体となって、「暮らし」全体にわたって、継続的に「認知症の人にやさしい」地域に向けた環境整備を行っていく必要がある。
 しかし、「認知症の人にやさしい」街づくりを先進的に進めている地域においてさえ、上記のような官民連携の取り組みはまだ緒に付いたところである。
 そこで、本事業では、複数の地域でモデル的に官民連携の取り組みを実践し、その推進に向けた具体的な知見を整理した。そこで得られた知見・ノウハウのとりまとめ・発信を行うことで、各地域での官民連携、産官学による「認知症の人にやさしいまちづくり」を推進することが本事業の目的である。

2.事業概要
 認知症にやさしい地域づくりに関して知見を有する有識者、実務者からなる検討委員会を設置・運営した上で、下記を実施した。

(1)モデル地域の選定、関係者間の調整
 過去の調査研究等を踏まえ、モデル的に官民連携の取り組みを実践する地域として以下の①~③を選定した。
①福岡市
・産官学と市民(当事者及びその家族含む)による「認知症にやさしい街づくり」に向けた協議体・プラットフォーム組成に向けた準備、検討を実施
②京都市・向日市
・小売業-地域専門職-行政による認知症の人にやさしい買い物環境づくりに向けた検討会(ワークショップ)等を実施
③神戸市
・診断助成制度と事故救済制度を2本柱とする「認知症神戸モデル」を推進し、①MCI対象者等への地域資源紹介トライアル、②制度利用者の実態・ニーズ調査等を実施

(2)官民連携の取り組み実証
 選定したモデル地域において、実際に、官民連携での取り組みを実践(並走支援)した。

(3)成果連動型の民間契約事例の調査
 成果連動型の契約方式にて、認知機能維持・向上等の取り組みをモデル的に進めている地域を対象にヒアリング調査を実施し、取り組みの背景や課題認識等についての把握を行った。

(4)官民連携プラットフォーム構築の指針のとりまとめ
 モデル実証での取り組みプロセスおよび事例調査を通じて把握した官民連携プラットフォーム構築に関する取り組みの推進にあたっての課題や留意点を整理し、他地域での展開の際のヒントとなるようにポイント等をとりまとめた。

3.主な事業成果
 各地域での取り組みからは認知症に関する官民連携において以下のような点がポイントとして示唆される。

(ア)多数の企業が参画する協議会等のプラットフォーム型の官民連携
 この種の取り組みを進めていく上では、適切な民間企業の参画を促すことが課題であり、企業内で意思決定力のある人が参画する場での啓発など多様なアプローチが必要である。消費者である「当事者との対話」の機会を設けることは、こうしたプラットフォームの理念に合致しているだけでなく、企業側にとっても魅力があり、民間参画促進にも有効だと考えられる。
 また、協議会等のプラットフォームの立ち上げと運営には、一定の労力が必要であり、民間側で主体的に活動を推進・支援するコアメンバーが欠かせない。各地域やメンバーの状況に応じ、取り組みやすい形で協力体制を構築することがポイントとなる。
 福岡市のような政令指定都市ではない、小規模自治体等での異業種の連携のあり方についてはさらなる調査研究が必要である。

(イ)個別の民間企業と、行政や地域の介護事業所等との連携
 京都市・向日市での取り組みを通じて、普段接点の少ない官民の主体が、具体的な事象について検討を行うことにより、新たな認知症の人への支援のあり方が検討できる可能性が示唆された。一般的には、イオンのような民間企業と、行政関係者や介護関係者等が、同じ場で共通の話題について議論を行うことは少ない。このような新しいネットワークから、従来の枠にとらわれないアイデアが生まれ、実践につながっていくことが期待される。今後、継続性のある活動にしていくには、小さくても目に見える「成果」を早期に作っていくことが必要である。

(ウ)「認知症の人にやさしい街づくり」に向けた施策検討・実践・検証のサイクル
 神戸市での活動からは、「認知症にやさしい街づくり」に向けては、施策の実践に対して市民の反響・反応を確認しつつ、よりよい仕組みへと検討・改善を積み重ねることの重要性が示唆される。「認知症にやさしい街づくり」は、一朝一夕にできあがるものではなく、自治体の支援制度についても継続的な改善・改良が求められる。今回、神戸市で実施されたアンケート調査からは、今後の「神戸モデル」を検討していく上での検討材料となる利用者の現時点の反応やニーズが確認された。

(エ)「成果連動型契約」等による民間活力の活用
 調査を行った大川市、天理市に共通していたのは、「通いの場」へ参加者が継続して通い続けてもらうことに民間の活力を有効活用しているということであった。多くの自治体で課題となっている高齢者の社会参加の促進に、民間企業が持つ集客や場の運営・維持に関わるノウハウが役立つ可能性がある。
 また、「成果連動型」という契約形態が、参加する市民のモチベーション向上につながる可能性が示唆された。介護分野や街づくりに、成果連動型契約を活用する事例が徐々に増えつつあるが、今後、こうした副次効果についても丁寧に検証していくことが必要である。

※詳細につきましては、下記の報告書をご参照ください。
【報告書】

本件に関するお問い合わせ
 リサーチ・コンサルティング部門 高齢社会イノベーショングループ
 部長(シニアマネジャー) 紀伊信之
 TEL:06-6479-5352 E-mail:kii.nobuyuki@jri.co.jp
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