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JRIレビュー Vol.6,No.78

第1期地方創生戦略の振り返りと今後のあるべき姿

2020年05月28日 藤波匠


2014年に制定された「まち・ひと・しごと創生総合戦略(以後、地方創生戦略)」の見直しが行われ、2019年末、第2期地方創生戦略が閣議決定された。ここでは、人口移動と出生数の分析から同戦略の成果の振り返りを行ったうえで、今後の地方創生のあるべき姿について検討を行う。

第1期地方創生戦略では、2020年までに「東京圏の転入超過数をゼロにする」という目標を掲げ、移住促進などに取り組んだが、東京圏の転入超過は増加傾向にあり、目標は未達となる。好景気を受けた大企業の積極採用の影響もあり、2018年には、2014年に比べ29の府県で転出超過が拡大し、その間、東京圏の転入超過数は24.7%増加した。

人口移動は、経済情勢や企業の雇用ニーズに影響を受けやすく、一部自治体が力を入れ、成果を誇示している移住促進政策も、人口の流入促進・流出抑止に明示的な効果は認められない。東京圏の転入超過をゼロにするという目標を設定したことにより、移住者獲得競争が過熱し、地方自治体は消耗戦を余儀なくされた。

地方創生戦略の根底には、「東京への人口の集中が、日本全体の少子化、人口減少につながっており、これを是正すべき」という考え方がある。しかし、第1期地方創生戦略の期間中は、東京への人口集中が進み、出生数の増加も認められなかった。逆に、同時並行的に進んだ子育て支援策などにより、東京都で保育所の門戸が広がり、子育て世代は都内にとどまる傾向が認められる。

たとえ東京への転入超過がゼロという極端な前提条件を想定しても、わが国の出生数の押し上げ効果は、2030年時点で0.6%となると試算される。少子化の要因としては、人口移動よりも出生率の低下や高齢化の方がはるかに大きく、東京一極集中が少子化を招いているという考え方は、妥当性が疑われる。

地方創生戦略で考慮すべきは、地方において、長期定住を可能とする所得・雇用が確保できるように、仕事の質を高めること、すなわち、生産性を高めることである。地域産業の生産性向上を図るには、「技術革新」と「海外需要」の取り込みがポイントとなる。

技術革新の分野では、これまでのように単なる省力化だけでなく、より付加価値の高い製品・サービスの提供につながるような発想が必要となる。また、海外需要の取り込みに関しては、このところ保護主義という逆風が吹いているものの、中小企業でも、輸出企業や海外直接投資を行う企業の方が、国内マーケットのみをターゲットとする企業よりも収益性が高いという事実がある。

こうした地域産業の強化に向けては、各地に根付いた地域金融機関の貢献が重要となる。資金供給の要というだけでなく、より重要性を増すのが、地方で不足しがちな高度人材の供給やオープンイノベーションのマッチングであり、その仲介役を地元企業と強い結びつきを有する金融機関が担っていくことである。

地域産業戦略こそが地方創生戦略であるとの認識のもと、地方の各主体が連携し、地域の強みを生かした戦略を構築することが求められており、その積み上げこそがわが国全体の成長戦略に他ならない。
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