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ビューポイント No.2019-030

コロナショックをどう乗り切るか-「グローバル資本主義の変質」を見通して

2020年03月19日 山田久


中国湖北省武漢市に最初の感染者の出た新型コロナウイルスは、瞬く間に中国内外に広がり、世界中で人やモノの移動制限を生むことで景気の大幅な落ち込みをもたらしている。3月半ば以降はとりわけ欧州で急激な広がりがみられており、過去の感染症のパターンからすれば、少なくとも5月半ばごろまで世界的に感染拡大が続くとみておく必要があろう。さらに、今回は感染経路がみえにくいことから明確な感染拡大の終息宣言が行われず、一国内でいったん感染を封じ込めても、海外から再びウイルスが持ち込まれ、何度か流行を繰り返して影響が長期化することを想定しておく必要がある。

中国では、1~3月の成長率の大幅落ち込みは不可避に加え、4~6月期に経済活動が元に戻るのも不透明と言わざるを得ない。一方で、習近平政権としては信認維持のために経済活動の正常化が至上命題であり、金融財政両面で様々な政策ツールを用いて対応することは間違いなく、7~9月には総じて経済活動は回復傾向が定着していくと思われる。もっとも、世界経済全体の減速のなかで、V字回復は難しく、成長ペースは緩やかになるとみておいたほうがよいだろう。さらに、社会安定を優先したゾンビ企業の救済は、中国経済の成長力を落とし、中長期的な問題を大きくすることになる点に注意しておく必要がある。

3月に入ってからは中国以外での感染拡大が急激に広がることで、局面は変わった。とりわけ感染拡大が深刻なのは欧州である。人の移動は強い制約を受けざるを得ず、これまでテロなどが発生しても比較的安定して推移してきた欧州の消費活動も、今回ばかりは大きく下振れすることが避けられない状況にある。当初は対岸の火事に見えていた米国も、3月に入って感染拡大が加速しており、景気の大幅下振れは不可避な状況にある。わが国経済にも甚大な悪影響が及んでいる。WHOがパンデミックを宣伝するなか、足元の世界経済は同時不況入りした公算が大きい。

今回の新型ウイルス禍の短期的な経済的影響は、海外・国内を問わず、当初の想定を大きく上回る打撃となることを覚悟する必要がある。一方で、感染を完全に抑え込むことはできないにしても、各国の努力と国際協力により拡大ペースをコントロールすることは可能と考えられる。その意味で、半年程度先を展望すれば、世界経済は緩やかでも回復に向かっているとみることは可能であろう。しかし、世界的な終息宣言がなされなければ、成長経路が下方シフトする可能性は高く、さらに、中長期的観点から警戒すべきは、今回の出来事が現在の日本を含む世界の経済が抱えている構造問題―①中国集中リスク、②グローバル化リスク、③地球温暖化問題、を改めて浮き彫りにし、「危機後」の経済成長力を下押しするリスクだろう。

上で指摘した構造問題は、実は以前から指摘されていたものであり、今回のショックを契機にその是正を目指した動きが強まり、トレンドの変調が明確化するとみるべきである。結果として、「グローバル資本主義の変質」に注目する必要がある。具体的には、イ)グローバル産業立地の再編(「コスト低減・利便性」最優先から「生活安全保障」とのバランス重視にシフト)、ロ)脱炭素化(パンデミックの背景にある地球温暖化を阻止しようとするムーブメントの強まり)、ハ)経済活動のデジタル化(テレワーク・在宅勤務、画像を使った医療・教育の遠隔サービスの普及)、の流れが加速されるだろう。

目下、感染拡大をできるだけ早く止めることが肝要であり、人々の交流を制限する措置はやむを得ない一方、政府は資金繰り支援や失業給付・所得補償などの緊急的な救済措置を、必要に応じて思い切って講じることが必要である。同時に、景気刺激策のメニューと財政措置をあらかじめ準備し、タイミングを見て発動することを表明することで、国民や企業に先行きの安心感を与えることが肝要である。すでに政府は動いているが、その実現を確実なものとし、「企業が中長期の視点で投資や雇用、賃金を維持・増加させていくことが重要」とのメッセージを発していくことが求められよう。

その一方で、意識しておかなければならないのは「出口」である。経済が正常軌道に復帰すれば緊急措置や景気刺激策は縮小していく筋合いのものであり、さもなければ中長期的に日本経済の活力をなくし、すでに先進国最悪の財政状況をさらに悪化させ、将来の財政破綻のリスクを高めることになる。もちろん、機械的に期限を切って一気に終了というような乱暴なやり方は論外であるが、a)当面の危機防止策、b)その後の短期の景気刺激策、に続き、c)中長期的に日本経済が持続的な成長軌道に復帰するための構造対策、をセットで考えることが重要である。この構造対策の内容は、「グローバル資本主義の変質」を見越した新しい発想に基づく必要があり、①「生活安全保障」「事業継続性」の観点からの自給確保・国内回帰促進策、②産業・地域横断的な産業・企業の統合・再編促進策、③制御されたグローバル化のもとでの内需主導の持続的成長のビジョン、が具体的なメニューの柱となる。

コロナショックをどう乗り切るか-「グローバル資本主義の変質」を見通して(PDF:646KB)
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