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【農業】
産地単位で考える気候変動対策

2020年03月10日 前田佳栄


 近年、各地で異常気象が目立っている。今年は記録的な暖冬で、筆者の地元である富山県南砺市では、深刻な雪不足により、冬期国体の開催が直前まで危ぶまれていた。競技は無事に終了したが、運営スタッフやボランティアの皆さんによる懸命な雪入れやコース整備の作業無しでは成り立たない大会だった。暖冬は農業にも深刻な影響を与えている。キャベツや白菜は生育が進み過ぎて出荷量が増え、安値が続いている。雪解け水が減るため、春以降の農業用水の不足を心配する声もある。ここ数年、既に稲作の水不足が顕在化している地域もあり、水不足による作柄の悪化も懸念される。

 気候変動が激化すると、農業経営も立ち行かなくなるところもある。作物の生育に関しては、気温の上昇や新たな病害虫の発生等により、これまで培ってきた栽培ノウハウが通用しなくなり、計画していた収量や品質を達成できなくなる。また、今冬のように、生育が進みすぎても需給バランスが崩れて価格が安定しなくなる。こうした状況が続けば農業で生計を立てることが難しくなり、リタイアを検討している高齢農業者の離農の加速や、農業に魅力を感じる若手の新規就農の減速によって、農業は危機に陥ってしまう。国は、農業者をサポートするために、自然災害や農産物の価格の低下などで売上が減少した場合に、その減少分の一部を補償する収入保険制度を開始している。しかしながら、毎日世話をしてきた作物が売り物にならなくなってしまうときの農業者の心情を考えると、収入保険制度だけではなく、安定して農産物の生産と販売を続けられる方法を検討していかなくてはならない。

 とりわけ、今後、検討が必要となるのは、「品目変更」による適応策の推進であろう。農業では、気温、日照、土壌条件等の栽培環境を踏まえて、その場所に最適な品目を選んで栽培している。温暖化が進行することで、今栽培している作物の適正な栽培環境と現状との乖離が大きくなると、収量や品質の低下が深刻化する。そうした場合には、温度上昇に合わせて、栽培する作物を切り替えていくことが求められる。。品目変更の場合、農業者は生産面・販売面ともに一から計画を練り直し、ノウハウを蓄積する必要があるため、経営を安定させるには新規就農に近いハードルを乗り越えなければならない。農業者が個別にこうした課題に取り組もうとすると、大きな負担となり、中には就農を断念する人も出てきてしまう。

 気候変動の影響を受けるのは農業者だけではなく、産地全体が危機に瀕する可能性もある。産地には、農業者以外にもJA、試験場等の研究機関、資材や機械の販売店、食品加工業等の様々な関係者が集まっている。ある産地の農業の衰退は、周辺産業の衰退にもつながるため、農業者だけではなく、産地の農業や食品関連産業に関わる全員が連携して、気候変動のリスクに対して責任を持って対応すべきである。例えば、産地の試験場やJAが農業者に先行して栽培ノウハウを蓄積し、農業者への指導を行う等のサポートが不可欠である。今から手を打てば、産地全体が新品目の産地として生まれ変わることも可能である。手遅れになる前に、産地全体で気候変動への対応を進めていかなくてはならない。

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※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。

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