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アジア・マンスリー 2020年3月号

景気回復と財政赤字削減の両立を目指すインド

2020年02月28日 熊谷章太郎


財政・金融政策の拡大余地が限られるなか、インド経済が再び高成長路線に復帰できるかは構造改革を加速できるかにかかっている。

2020年度予算案は財政健全化路線を維持
2018年後半以降、大手ノンバンクのデフォルトをきっかけとした信用不安の高まりなどを背景にインド経済は低迷が続いている。第2次モディ政権が発足した2019年7月以降、政府は相次いで経済対策を打ち出しているものの、景気は依然として低迷が続いている。2019年度(2019年4月~2020年3月)の実質GDP成長率は、リーマン・ショックが発生した2008年度以来の低い伸び率にとどまると見込まれている。

こうしたなか、財務省は2月初に2019年度の歳出入見込みと2020年度予算案を発表した。景気減速や2019年9月に発表した法人税引き下げを受けて2019年度の税収は当初計画よりも下振れ、中央政府の財政赤字の対名目GDP比は3.8%と前年度(同3.4%)から拡大する見込みである。2020年度も景気回復に向けた歳出拡大により歳出の前年度比は+12.7%と税収(同+8.7%)を上回る見通しとなっている。ただし、政府保有株式の売却収入など税収外の歳入増加により財政赤字の対名目GDP比は3.5%に縮小することを見込んでいる。

様々な景気対策
政府は2020年度の予算案で「Ease of Living」を主題に掲げ、家計・企業双方に配慮した様々な施策を打ち出した。
家計に対しては、個人所得税率の引き下げや住宅購入に関わる税制優遇措置の適用期間の延長を発表するとともに農村開発や医療・教育関連予算を拡充する方針を示した。

企業に対しては、配当支払税の廃止や免税措置が適用されるスタートアップの対象拡大などの施策を打ち出すとともに、貿易赤字抑制・国内生産拡大に向けて電気自動車、携帯電話部品、医療機器などに関わる輸入関税・特別目的税の引き上げを発表した。

この他、金融システムの安定性向上に向けて、預金保険制度の対象となる預金額の引き上げや金融機関の債権回収に関わる「SARFAESI法」の適用対象となるノンバンクを拡大した。同予算案は今後国会の審議を経て、3月末頃に採択される予定である。

同予算案を巡っては、①生命保険や企業年金の支払いに関連した税額控除が適用されなくなるため、個人所得税率引き下げの減税効果は限られること、②自動車業界から要望の出ていたGST(財・サービス税)の引き下げや廃車政策などが盛り込まれなかったこと、などを理由に、景気浮揚効果があまり期待できないとの批判もある。しかし、州政府を含めた一般政府の財政赤字の対名目GDP比がアジア地域で最悪の部類に属し、財政赤字の抑制が喫緊の課題であることを踏まえると、景気支援ばかりでなく財政健全化にも配慮した予算編成となったことは止むを得ないといえよう。

物価上昇を受けて金融緩和余地も低下
財政面からの景気下支え余地が限られるなか、インフレ率の高まりを受けて金融政策の拡大余地も低下している。インド準備銀行は米国の利下げに追随する形で2019年に累計1.35%ポイントの利下げを実施したが、食料価格を中心にインフレ率が物価目標の上限を上回る伸び率に達するなか、2019年12月以降は政策金利の据え置きを続けている。

インド準備銀行は足元の食料インフレが和らぐ兆しがあるなかで金融緩和を再開する姿勢を示しているが、先行きは農業生産に大きな影響を与えるモンスーン期(6~9月)の雨量、原油価格の動向などを注視しながら緩やかなペースで利下げを実施すると見込まれる。

やや長い目で見ると、財政・金融政策ともに拡大余地が限られるなか、インドが再び高成長路線に復帰できるか否かは経済・金融・社会など様々な面で構造改革を一段と押し進められるかにかかっている。製造業誘致・雇用創出といった観点からは、土地収用の困難さや厳格な解雇規制など外国企業のインド進出の阻害要因を取り除くとともに、電力・物流インフラの整備を加速させる必要がある。また、金融システムの安定性向上に向けて、国営銀行の経営改革やノンバンクへの当局による監督体制の高度化も重要である。国営銀行については財務体質の強化に向けて銀行合併や公的資金の注入が進められているが、依然として民間銀行に比べて収益性は低い状況が続いている。政府は金融サービスのデジタル化を通じた経営効率化を目指しているが、民営化や人員削減などを含めて大胆な改革を検討する必要がある。

電力・銀行セクターなどへの補助金支出が近年の財政赤字拡大の一因となっていることから、このような改革は財政健全化を目指す上でも極めて重要である。
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