オピニオン
70歳までの就業機会確保に向けた企業の課題と施策
2020年02月26日 小島明子
2020年2月4日の閣議で、政府は70歳までの就業機会の確保を企業の努力義務とする、高年齢者雇用安定法などの改正案を決定しました。今国会に法案を提出し、成立すれば2021年4月から施行される予定です。
日本経済団体連合会の「ホワイトカラー高齢社員の活躍をめぐる現状・課題と取組み」(2016)によれば、今後の課題として、多くの企業が高齢社員のモチベーション低下抑制や組織の新陳代謝等を課題に掲げていました。法律の改正を視野に入れると、70歳まで働き続ける従業員の活躍推進に向けた施策が求められています。
2019年、日本総合研究所では、民間企業かつ東京都内のオフィスに勤務し、東京圏に所在する4年制の大学あるいは大学院を卒業した中高年男性45~64歳に焦点を当て、意識と生活実態に関するアンケート調査「東京圏で働く高学歴中高年男性の意識と生活実態に関するアンケート調査」(以下、「日本総研の調査」)を実施しました。本稿では、日本総研の調査に基づき、2つの視点で調査結果を取り上げます。
1つ目は、副業・兼業の解禁です。中高年社員の活躍推進策として、副業・兼業の解禁に期待を寄せる企業は少なくありません。日本総研の調査によれば、副業・兼業をやってみたいと希望する中高年男性は約7割に上ります。副業・兼業を希望する日数・時間(給与が削減される前提)としては、「週1日程度」(24.7%)が最も多く、週2日、3日まで加えると、全体の約半数が業務時間や給与を削減してでも副業・兼業を希望しています。
一方、副業・兼業に反対している中高年男性の割合は、非管理職(17.8%)、管理職(23.7%)、経営幹部(28.1%)と職位が高くなるごとに増えています。経営層や管理職から見れば、部下の会社に対する忠誠心が低くなることやマネジメントの煩雑さ等を懸念していると想像します。今後、副業・兼業を推進していくことで、中高年社員の活路を見いだすのであれば、経営者がトップダウンで進めていくことは必要不可欠だといえます。
2つ目は、キャリアプランニングの機会の提供です。日本総研の調査によれば、今後のキャリアプランや退職の準備を考えるための研修を受講したことのある中高年男性の約半数が、自分のキャリアを考えることの重要性を認識できたとして、受講効果を実感していますが、そのような機会を受講できた中高年男性(受講予定含む)は約3割に留まっています。
労働政策研究報告書「キャリアコンサルティングの実態、効果および潜在的ニーズ」(平成29年3月)(労働政策研究・研修機構)によれば、キャリアコンサルティングの相談場所・機関として、最も多かったのは「企業外」(44.3%)であり、「企業内(人事部)」(12.5%)、「企業内(人事部以外)」(8.8%)は1割程度に留まっています。国内全体でみても、企業が自社の従業員にキャリア相談ができる場所を提供しているケースは少ないのが現状です。
定年延長等、働く人生が長くなることを踏まえれば、キャリアプランを定期的に見直しができる機会や相談場所をつくることは、中高年社員の意欲を向上させるために有効です。
2016年に改正された職業能力開発促進法では、キャリア開発をする責任は(企業ではなく)労働者自身であることが明確にされる一方、企業には、労働者個人のキャリア開発の支援が要請されています。
一人ひとりが、組織に頼らずに、主体的にキャリアを切り拓いていく姿勢を持つことはもちろんのこと、企業側が高齢になった従業員のエンプロイアビリティを高めるための支援を行うことも、労働人口が減少する日本社会にとって重要なことだと考えます。
※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。