習近平総書記は、総合的な国力と国際的な影響力の両面で世界をリードする「近代的社会主義化強国」を目指している。「近代的社会主義化強国」が志向されるようになった背景には、「全面的な小康社会の実現」が視野に入り、中国共産党の存在理由を示す新たな目標が必要となったことがある。「中国製造2025」は「近代的社会主義化強国」の中核をなす政策であり、2049年までに「製造強国」のトップに躍り出ることを目標とする。
米中対立の起源は「近代的社会主義化強国」や「中国製造2025」だけでなく、「中国模式」(中国モデル)を巡る議論にも求めることができる。「中国模式」は、経済発展の持続可能性と第三国への移植可能性を肯定する概念である。習近平政権の誕生により「中国模式」は議論の余地のないものと認識されるようになり、中国ではいかに強化し、普及していくか、アメリカではいかに対抗するかが議論されるようになった。
習近平政権が「強国」志向を強めた背景には、同政権が抱える「不安」と「自信」がある。不安としてあげられるのは潜在成長率の低下である。同政権は目標成長率を上回る成長を達成することで求心力を高めるという歴代政権の手法が使えないため、「強国」を打ち出すことによって成長率の趨勢的低下という問題から国民の目をそらそうとしている。自信としては、世界第2の経済大国となったこと、また、開発途上国の盟主としての地位が高まったことがある。
習近平政権は、アメリカを刺激しない「韜光養晦」(とうこうようかい)へ回帰した。しかし、「強国」路線を放棄したわけではない。貿易・投資におけるアメリカの地位が低下していること、イノベーション能力向上に対する自信を深めていることから、同政権が対米交渉において一方的に譲歩するとは考えにくい。大衆迎合主義の台頭や開発途上国との関係深化という外的環境の変化も同政権の強硬姿勢を支える要因となっている。
米中対立が先鋭化すれば、ハーバード大学のグレアム・アリソン教授が指摘する「トゥキディデスの罠」が現実味を帯びてくる。しかし、現在のアメリカと中国はアリソン教授が分析したどの時代の覇権国と新興国よりも深く結び付いており、戦争はおろかアメリカ陣営と中国陣営に分かれるデカップリングさえ進みにくい状況にある。
開発途上国の盟主としての中国の地位は脆弱である。資源国を除く多くの開発途上国は、対中貿易赤字の拡大により経常収支赤字が拡大する一方、外貨準備の減少により中国からの資本流入が細ると見込まれる。その一方で習近平総書記の求心力は、想定を上回る成長鈍化により国内でも低下すると見込まれる。こうしたことから、対米通商交渉は景気への配慮から妥協点を探る方向に進まざるを得なくなると思われる。
関連リンク
- 《米中対立における中国とインドの立ち位置》JRIレビュー2020 Vol.3,No.75
・習近平政権はなぜアメリカとの対立を厭わないのか(PDF:3344KB)

・中国の産業支援策の実態-ハイテク振興重視で世界一の強国を追求(PDF:2270KB)

・世界経済の潮流を左右するインドの対米・対中経済関係(PDF:2329KB)
