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JRIレビュー Vol.4,No.76

誰のため、何のための高等教育か-進学・在学中・卒業後の問題点と求められる抜本的改革の方向性

2020年04月23日 河村小百合


今日、わが国に限らず、世界全体の経済や社会がグローバル化、デジタル化という大きな変革の波にさらされている。そうしたなか、わが国においては、高等教育、とりわけ大学教育の改革の必要性を唱える声が高まっている。

わが国の18歳人口は、「団塊の世代」(240万人前後)と、「団塊ジュニア世代」(200万人前後)という二つの山を越えた後は減少の一途をたどり、足許の2019年は117万人で、その13年後の2032年には98万人と、100万人を切る水準にまで落ち込むことが確実視されている。そうしたなか、高等教育機関への進学率はとりわけ90年代にめざましく上昇し、直近の2018年は、「大学+短大」ベースで57.9%、さらに高等専門学校(以下、高専)と専門学校も含めれば81.5%という高水準に達し、国際的な比較でみても、最も高いグループの一角を占めている。

しかしながら、高等教育機関への進学率を詳細にみれば、都道府県別(最高は東京都の72.8%で、最低は大分県の36.9%)や男女別で歴然とした格差もなお存在する。都道府県別の大学進学率には、各都道府県の大学の収容力や保護者の経済力等が影響を与えているとみられる一方、生徒の学力に応じた進学率とは必ずしもなっていない。これでは、いかに国全体としての高等教育機関への進学率が高くても、本来、大学に進学して然るべき能力と意欲を有する人材が実際に大学に進学できているといえるのか、疑問が残る状況にある。

次に、進学後の学生の修学状況をみると、全国の国公私立大学の約8割弱が高校での履修状況に配慮した取り組みを行っており、「学力別のクラス分け」にとどまらず、本来、高校卒業・大学進学までに履修しておくべき内容を大学で再度教えるという「補習授業の入学前後における実施」が約半数の大学において行われている。大学入学時のスタート時点からこのような惨状では、卒業までの間に大学教育として一般的に期待される成果を十分に上げるのは相当困難であろうことは想像に難くない。また、在学中の国家試験の合格状況にも、大学によって大きな差がついているものがみられる。

さらに、卒業後の状況をみると、近年、新規大学卒業者の就職率は極めて好調に推移しているものの、OECDの調査による、大学卒業者が従事する職業レベルの国際比較をみると、わが国で大卒レベルの職業に就けているのは大卒者全体の58.4%と、本調査の結果が示されているOECD加盟国中で最低という、不名誉な事態となっている。

(独)日本学生支援機構(以下JASSO。旧日本育英会)が2018年1月に実施した奨学金返還者に対する調査によれば、延滞者では、無延滞者に比較して、非正規雇用が占める比率が高い。これは各学種に共通の傾向で、大学卒業生や大学院卒業生についても然りである。また、返還者の職種別に本人の職業と年収の状況をみると、延滞者、無延滞者を問わず、非正規社員(職員)の所得水準は低いなど、わが国の大学や大学院教育が、卒業後の“employability”(社会で雇用され得る能力)を十分に身につけるものになっているとはみなし難いことを物語っている。他方、高専の卒業生の所得水準は短大等に比較すれば高く、“employability”涵養の面で高い水準の高等教育機能を果たしていると評価できる。

このように、わが国においては、「進学時の学生の学力が不十分である」ために、「在学中にも学修成果が十分に上がらず、在学中に十分な“employability”を身につけられない」がゆえに、「各高等教育機関の卒業生として然るべき職に就くことができていない」、というように、①進学時、②在学中、③卒業後の問題が相互に関連する形で高等教育の機能が低下している。諸外国が高等教育の機能強化に注力するなか、わが国の現状がこれでは国民一人ひとりが持てる潜在的な力を十分に伸ばし得ず、国全体の競争力や成長力が伸び悩むのはある意味当然とみることができよう。

こうした高等教育の機能低下の背景には、①経済・社会情勢変化への視座を欠く形で、大学の教員らがもっぱら中心となって高等教育政策運営が行われてきたことや、②“終身雇用”制度のもと、わが国の企業や社会が大学に求めてきた機能の最たるものは、“学歴”による選別機能、シグナル機能であり、その際に最も重要な判断基準となるシグナルは、入試による選抜時点の“偏差値”であった、という現実がある。

こうした問題を踏まえれば、わが国全体としてまず、高等教育を受ける意義を再認識したうえで、以下の改革に着手することが求められる。具体的には、①高等教育政策運営の枠組みを、従来からの大学関係者中心によるものから、広く社会全体がかかわるものに抜本的に転換すること、②現状、ほとんど手つかずの各大学等の教育の成果の把握や対外的な情報開示の徹底に早急に着手すること、③高大接続の在り方を、欧米各国のような大学進学に際しての学力到達判定制度の設置も含めて再検討すること、④経済・社会の変化に対応し、高専や専修学校等も含めた国全体としての高等教育機関の在り方を考えていくこと、である。わが国の一人ひとりの若者の将来のため、そして国全体の将来のため、広く社会全体の視座に立った改革を進めることが求められている。
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